建設DXとは?メリットや成功事例を紹介
建設DXとは?メリットや成功事例を紹介
デジタル・テクノロジーの力を活用して産業構造を変化させることを「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」と呼んでおり、多くの業界で導入が進んでいます。 全ての業種で「DX」が求められていることを前提として、業界の持つ特有の課題から「建設業のDX推進」は業界内外からも注目を集めているのです。 しかし、実際にデジタル・テクノロジーの力を活用してどのように業界構造を変えていくのかイメージが湧かない方も多いのではないでしょうか? この記事では、建設業が抱える課題から建設DXのメリット、建設業においてDXを取り入れた事例などを総合的に解説します。
目次
建設業が抱える課題
数多くある業種・業態の中でも「建設業」が注目される背景には、業界特有の課題があります。
DXの導入が早急に求められる建設業には、どのような課題があるのかを見ていきましょう。
「働き方改革関連法」が2024年4月から適用される
日本では「働き方改革関連法」によって、企業は1日8時間、週40時間の法定労働時間を遵守する必要があり、法定労働時間を超えて働く場合には36協定の締結が必要です。
36協定を締結した場合でも残業時間には上限があり、最大でも月45時間、年360時間以内と定められています。
しかし、「医師」「自動車運転業務」「建設業」は特例措置として労働時間の上限規制に一定期間の猶予が与えられていました。
2024年4月からは特例措置が撤廃され、「建設業」でも労働時間の上限規制を気にして企業が労働を指示する必要があり、少ないリソースを活用して効率よく業務を遂行することが求められています。
高齢化・人材不足
一般社団法人日本建設業連合会が発表している「建設業ハンドブック」に記載されている「4.建設労働」の「建設業就業者の推移」を見ると、2001年に632万人居た建設業就業者が、2020年には492万人まで減少しています。
また、「建設業就業者の年齢別構成比の推移」を見ると、55歳以上の建設業就業者の割合が2001年は23.9%だったのに対して、2020年は36.0%まで増加。29歳以下の建設業就業者は2001年には19.6%だったのに対して、2020年は11.8%まで減少しました。
日本全体で少子高齢化も進み、人材確保の難易度が増加していく中で、DXを活用した業務効率化が喫緊で求められています。
(参考)一般社団法人日本建設業連合会「建設業ハンドブック2021」
低い労働生産性
システムツールが発展している現在においても、建設業は図面・報告書が未だ紙ベースでやり取りされるなどアナログな要素が強いです。現場から帰った後も事務所内で報告書を制作する必要があったり、変更が一個入るだけで紙ベースで作成している大半を再作成する必要があるなど、効率的に作業できる環境とは言えません。
危険作業のリスク
高所作業など働く上で危険を伴うことから、全ての業種の中でも労働災害が多いことも課題のひとつです。
若い世代も近年は、就職も売り手市場であることから、危険作業が伴う建設業は敬遠されてしまいます。
危険な作業を減らして、現場の安全性を向上させることにDXが求められているのです。
技術継承問題
建設業の高齢化が着実に進んでいる中で、長年培ってきた技術を持った人材が高齢に伴って技術継承ができないままに引退するケースも問題となっています。継承先となるはずの若手・中間層が減少しており、企業資産であるはずの熟練技術が失われていくことは企業目線でも避けたいでしょう。
近年は、熟練の技術を持った職人の動きをAIが映像解析して、動きを再現できるように標準化する新しい技術継承の仕組みが実現に向かっています。このような観点からも、DXの導入は早急に求められるのです。
建設DXとは
AI・ICTなどの最新技術を活用して、建設業が抱える「人材不足」「作業効率化」「技術継承」などの課題を解決することを「建設DX」と呼んでいます。しかし、現実として建設業界の多くは「勤怠管理」「図面管理」などに独自システムが定着しており、一概に効率的とは言えないのが現状です。
全ての業務をいきなり新しいものに切り替えるのではなく、部分的なタスクを切り出して徐々にデジタル化していくことが求められます。
次に、建設業のDX化に向けた政府の動きについて押さえておきましょう。
内閣府が定義した「Society 5.0」とは?
内閣府が定義した「日本が目指す未来社会の姿」として提唱されたものが「Society 5.0」です。
「狩猟社会」(Society 1.0)「農耕社会」(Society 2.0)「工業社会」(Society 3.0)「情報社会」(Society 4.0)に続く社会であり、「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合したシステムによって、経済発展・社会的課題解決を両立する社会」と定義されています。
「インターネットがあらゆるモノを繋げる」ことで、新たな価値を生み出して、「AI」「ロボット」などの最新技術が社会課題を解決する鍵になるとしています。
建設業においても、デジタルツールを活用した業界改革が必要です。
国土交通省が主導で行う「i-Construction」とは?
「i-Construction」とは、「測量」「設計」「検査」「維持管理」に至る全ての事業プロセスでICTを導入することで、建設生産システム全体の生産性向上を目指します。
さらに「i-Construction」を理解する上で必要な3つのキーワードを解説します。
(1)CIM
CIMとは、3Dモデル・仕様情報を一貫して管理するシステムのこと。
CIMを導入して設計段階から3Dモデルで議論することで、実際に着工するまで気づかなかった課題や潜在的な問題を鮮明に顕在化できるようになり、工事の手戻りを防ぎます。
(2)ドローン
測量する際にドローンを用いることで、数百万地点の測量を約15分で完了します。
さらに測量データを3Dデータで作成することが可能となり、施工時に必要な土の量を自動で計算するなどの作業自動化にも貢献するのです。
(3)ICT建機
建機の操縦は長年の経験を必要とする難易度の高い業務であることから、ある一定の経験のあるスタッフに依存してしまう問題も引き起こしていました。自動制御機能を搭載した最新のICT建機を導入することで、経験の浅い操縦士でもアシストを受けながら施工が行えるのです。
「施工の正確性」も担保される他、「安全性向上」も見込まれます。
建設DXが注目される背景
数多くの業種・業態でも「DX導入」が求められている中で、なぜ「建設業」におけるDX導入が注目を集めているのでしょうか?
具体的な背景を押さえておきましょう。
ビジネスのオンライン化
2019年から世界中に拡大した感染症「新型コロナウイルス」の影響で、日本全体でビジネスのオンライン化が急速に進行しました。
建設現場で実際の建造物を確認しながら打ち合わせするスタイルが当たり前だった建設業界では、オンライン化する顧客にどう対応するべきか、社員間のコミュニケーションをどのような形で維持するべきかが大きな課題となり、その環境でどうDXを進めるかが注目されています。
「2025年の壁」
「2025年の壁」とは、2018年に経済産業省がまとめたレポートで提示された問題です。
多くの企業でシステム老朽化が進んでいることから、この状態が継続されると、既存システムの維持管理費がIT予算の90%以上になり、新しいシステムへの投資が行われないことを危惧しています。
また、2025年には専門的知識を有しているIT要員不足が慢性的に発生して、サイバーセキュリティに関連する事故・災害トラブルのリスクも高まると予測されているのです。
老朽化が進む既存システムの依存から脱却できなければ、2025年以降、日本経済は「システム障害」「データ損失」によって年間最大12兆円の経済損失が生まれる可能性があると経済産業省は警告しています。
このような背景から、建設業のDXは注目を集めているのです。
建設DXのメリット
老朽化する既存システムを維持することで莫大な経済損失が生まれる以上、建設業のDX推進は今後も進んでいくことが予測されています。
建設DXを推し進めることで、得られるメリットを押さえておきましょう。
業務効率化の促進
具体例として、今まで紙ベースの平面図面を描いて顧客と打ち合わせしていたものを、3Dデータなどを用いて立体的な図面を描くことで、現場での打ち合わせ等をオンラインで進めることが可能です。
オフラインで面談する上で必要な打ち合わせ会場までの移動時間を省けると、他の作業に当てられる時間が増えるため、効率的に仕事を進められます。
省人化を進められる
具体例として、今まで建設機械に人が乗り込んで作業していたものを、遠隔操作する形にシフトした場合、機械に乗って操作する専門性の高い人員が不要になります。
このようなことから、省人化が進められる他、採用難易度が高い専門技術を持つ人材も不要になるでしょう。
また、遠隔操作によって無人で建設機械を動かすことが可能になり、作業者の安全性を高めることにも繋がります。
技術継承をスムーズに進められる
長年経験を積んで培ってきた熟練の技術を継承する若い世代が減少していますが、デジタル技術を活用して記録することもDXで実現可能です。
貴重な熟練の経験値をシステムに登録することで、若い世代がいつでも簡単に確認して、自分のスキルアップに生かせます。今までは仕事の業務時間内に直接学ぶ必要があったスキルも、システムの中に記録することでPC・タブレットなどを活用して「いつでも」「どこでも」学べる点も大きなメリットです。
建設DXの成功事例3選
一概に「建設DXを推進するべき」と表現しても、具体的に企業がどのような形で建設DXを成功させているのか知りたい方も多いのではないでしょうか?
最後に、建設DXの成功事例を紹介します。
「清水建設株式会社」の事例
「ものづくりの心を持ったデジタルゼネコン」を謳っている清水建設は、構造・性能をシミュレートするコンピュテーショナルデザインを設計段階から活用し、BIMデータを連携させながら、施工現場では「ロボット」「3Dプリンタ」なども活用しています。
そのほかにも、以下についても積極的に取り入れているのです。
・AR技術を活用した施工管理の開発/実用化
・3Dプリンタでコンクリート柱を構築
・自律型溶接ロボットの活用
独自開発した建物運用デジタルプラットフォーム「DX-Core」を活用して、「エレベーター」「監視カメラ」などの建設設備・Iotデバイスと連携して、運用管理の効率化、利用者の利便性・安全性の向上にも貢献しています。
「ダイダン株式会社」の事例
「オンライン会議システム」「CADシステム」等を活用して、離れた場所からリモートで現場をサポートする体制をいち早く構築しました。
その他、クラウドを活用したビル管理制御システム「REMOVIS」を開発して、監視センターから顧客の設備運用・維持管理をサポートするサービスを提供し、少人数での設備管理を推し進めています。
「大成建設株式会社」の事例
多数の実証実験をソフトバンクと提携して行っているのが「大成建設」です。
具体例として、5G通信を活用した建設機械の無人化事象実験では、大成建設が開発したロボットシステム「T-iROBO」を使って、5Gによる超高速通信で遠隔操作・自律制御のための信号伝送を行いました。
また、「ガスセンサー」「環境センサー」などを用いて温度や二酸化酸素などをリアルタイムで監視して、危険値が検出された場合に作業員へアラートを送信する仕組みも検証して、実用化を進めているのです。
まとめ
建設業が抱える特殊な事情と問題点、建設DXを導入するメリットと大手企業が推し進める建設DXの成功事例などを深掘りして解説してきました。
アナログ業務が多く、危険・きつい・汚いの3Kイメージが強い建設業の仕事がDXを活用することで大きく変化しようとしています。DXを導入することでどのような変化が起きるのかを理解した上で、DXを概念レベルではなく実例を交えながら理解を深めることが大切です。
IoTBiz編集部
2015年から通信・SIM・IoT関連の事業を手掛けるDXHUB株式会社のビジネスを加速させるIoTメディア「IoTBiz」編集部です。
関連記事
ニュース
IoT
この記事では、埼玉工業大学が開発した、「深谷ねぎ」の出荷時に廃棄される葉を資源化する技術について紹介しています。
2024-12-05
1min
ニュース
IoT
この記事では、ゆりいか株式会社が運営する障がい者向けサテライト型グループホームにて採用された、株式会社ソルクシーズが提供するIoT見守り支援システム「いまイルモ」について紹介しています。
2024-12-05
2min
ニュース
AI
DX
カメラ
この記事では、アイリスオーヤマ株式会社が販売を開始した、車両ナンバーを認識し、管理システムと連携する「車番認証カメラ」について紹介しています。
2024-12-05
2min