IoT・ICTを活用した農業のメリットや課題、導入事例をわかりやすく解説
IoT・ICTを活用した農業のメリットや課題、導入事例をわかりやすく解説
農業のイメージが若年層を中心に「キツい・汚い・危険」という3Kという認識で定着しており、「後継者がいない」といった課題も存在しています。しかし、IoTを活用した農業によって、農業従事者がより働きやすい環境を構築することが可能です。本記事では、IoT・ICTを活用した農業の全体像と、そのメリット・課題について詳しく解説します。将来的なIoT導入を考えている方も、ぜひ参考にしてください。
目次
IoT・ICTを活用した農業とは
ロボット技術や情報通信技術を「農業」に取り入れることで、「省力化」「精密化」「自動化」「高品質生産」などの実現を推し進めることを「スマート農業」と呼んでいます。
【農林水産省「スマート農業の展開について」農業分野における課題】を見ると、昭和35年に1,175万人を数えた基幹的農業従事者は、令和2年に136万人まで激減。
平成22年に110万人を数えた60代以下の基幹的農業従事者は、令和2年で67万人まで減少し「人手不足」と「高齢化」に苦しんでいるのです。
農業に関わる担い手は急激に減少している中で、以下のような問題も抱えています。
・一人当たりの作業面積の拡大
・「農作物選別」など多くの雇用が必要な作業がある
・手作業に頼らざるを得ない危険な作業やきつい作業
・トラクター操作などの技術取得が必要で、新規参入しづらい
このような課題を解決するために、日本の農業技術に「先端技術」を駆使した「スマート農業」を活用することで、「農作業の軽労化」「若年層の新規農業従事者の増加」に繋がると期待がされているのです。
(参考)農林水産省「スマート農業の展開について」
IoT・ICTを活用した農業のメリット
「農業従事者の激減」と「高齢化」に直面する業界の現在地を把握した上で、IoT導入が具体的にどのようなメリットを生むか気になる方は多いのではないでしょうか?
この項目では農業にIoT導入を推し進めることで得られるメリットを解説します。
労働力不足の解消に繋がる
北海道大学・ヤンマーなどが2018年に「トラクターロボット」を市販化。「耕うん整備」作業の自動化を実現することが可能になりました。このような「作業の自動化」を導入していくことで、有人で行わなければならない作業量を減らし、労働力不足の解消に繋げることが可能です。
(参考)農林水産省「スマート農業の展開について」
農作業の効率化・負担軽減
IoT導入によって農作業の効率化が進み、結果的に作業負担の軽減に繋がります。
株式会社ナイルワークスではドローンを活用して、専用タブレットを操作することで肥料散布を自動化する仕組みを開発。作物の生育情報を管理することで肥料を可変的に散布することも可能となり、肥料コスト削減・環境負荷の軽減にも繋げることが可能となりました。
また、天候によって大きく左右される「水位管理」も気象予測データなどをクラウドに蓄積していくことで、給水バルブ・落水口を遠隔操作・自動制御する仕組みも農研機構が主導となって開発されています。
このような管理業務が自動化・遠隔化できることで農作業の作業負担は大幅に減少し、身体的な負担も軽減されるでしょう。
(参考)農林水産省「スマート農業の展開について」
農業技術の継承が容易になる
今までの農業は、「適正な水位管理」「適切なタイミングでの追肥」などを長年の経験から身に付ける部分で賄っていることが多く、技術継承が難しい問題に直面していました。
適正なタイミングを見つける上で必要な各種データをクラウドに蓄積することが可能なIoT・ICTを活用した農業では、定量的な要素から適正なタイミングを逃すことがないため、若年層の新規農業従事者でも高品質な農作物を作ることが可能になりました。
新しい従業員を雇用する場合でも、IoT・ICTを活用した農業であれば、定量的なデータを扱っていることから農業技術を継承することが容易になります。
「新規農業従事者の参入障壁を下げる」「未経験の農業従事希望者でも仕事ができる」という両面でIoT・ICTを活用した農業はメリットを生み出すことを覚えておきましょう。
IoT・ICTを活用した農業のデメリットや課題
「労働力不足の解消」「農作業の効率化」など、IoT・ICTを活用した農業を活用することで多くのメリットを享受することが可能であることが分かりました。
その反面、「IoT・ICTを活用した農業を実現するための課題・デメリットなども知りたい方は多いのではないでしょうか?
IoT・ICTを活用したIoT・ICTを活用した農業のデメリット・課題について解説します。
高額な機器・システム導入コスト
IoT・ICTを活用した農業を導入する上で避けては通れない課題が、高額な機器・システムを導入するために多額の初期費用(イニシャルコスト)が掛かることです。
日本では「農業のスマート化」がまだ発展途上であり、導入システムを開発する企業同士の競合も少ないため導入コストは割高になります。
もし導入できたとしても活用がスタートしたばかりのICT技術は、「どの程度の費用対効果が見込めるのか」が見えない側面もあり、結果的に利用を断念する場合も珍しくありません。
各機器のデータ形式が規格化されていない
「高額な機器・システム導入コスト」の問題を解決したものの、次に問題として立ちはだかるのが「各機器のデータ形式が規格化されていない」ことです。
IoT・ICTを活用した農業で大切なことは、長期に渡って「気候」「適正水位」「追肥のタイミング」などのあらゆる情報をデータとして蓄積していき、判断精度を高めていくことが求められます。
蓄積されたデータは、新しく導入システムにも移行して活用できるようにしたいのが農業従事者の本音ですが、データ形式が各会社それぞれで違うため、移行できない場合も多いのです。
各種企業がOS・ミドルウェアの開発を独自で進め、市場シェアを獲得するために動いていることから標準化が進まないという背景があり、ICT導入を躊躇している農業従事者も場合も少なくありません。
農業市場が縮小している
農業市場が小さくなっていくと、「IoT・ICTを活用した農業を導入したい」と求められる絶対数も比例して減少することから、企業の採算性にも大きく関わるのです。
単に製品・サービスを売り込むのではなく、メーカー側の担当者が農場に赴いて、生産者とともに性能・効果を確かめていく実証に取り組む事例も増加。
また、農業市場が拡大している中国・ベトナム・タイなどに目を向けるメーカーも現れ始めるなど日本における農業市場の縮小も課題です。
IoT・ICTを活用した農業の導入事例
IoT・ICT活用における課題・デメリットについて説明してきましたが、実際には多くの都道府県で「農業のスマート化」に関わる施策が導入されています。
具体的な導入事例を詳しく見ていきましょう。
衛星リモートセンシングの利用による収穫作業の効率化(北海道)
北海道新篠津村にある川下共同乾燥施設利用組合では、秋まき小麦32筆と水稲72筆の収穫・乾燥作業を共同で行ってきました。
これまでは収穫時に「穂水分・整粒割合」を目視することで収穫順番を決めていましたが、筆数が多くなるに連れて管理負担が増えるのが問題となっていたのです。
このような背景から、令和2年に衛星リモートセンシングサービスを導入。
衛星データから得られるNDVI(正規化植生指数)と、穂水分・整粒割合の間に関連性が見られており、農業従事者が目視で行っている判断基準と照らし合わせても整合性があることが確認できました。
衛星データを利用した収穫順番の決定によって、省力化を実現できています。
(参考)農林水産省「衛星リモートセンシングの利用による収穫作業の効率化」
農業用ドローンの導入による水稲の省力的防除(和歌山県)
水稲栽培における防除作業については、重労働である上に人手が掛かる作業であることから、近年の人材不足問題も相まって負担が増え続けています。
新たな取り組みとして、和歌山市と紀美野町の農家が農業用ドローンを導入しました。
※和歌山市(平野部)
区画整備された圃場で自動飛行モードで防除したところ、
1haを4人で1日→2haを2人で半日に短縮
※紀美野町(中山間部)
棚田が並ぶ不正形の圃場のため手動モードで防除したところ、
50aを4人で4時間→2人で20分に短縮
上記のような省力効果が見られたのです。
株元に生息している部分の防除効果は低かったものの、さらに検証を繰り返すことで精度も向上していくことが予測されています。
(参考)農林水産省「農業用ドローンの導入による水稲の省力的防除」
パワーアシストスーツ導入によるすいか収穫作業の軽労化(秋田県)
生産圃場の拡大に反して、農業従事者の高齢化が大きな問題になっており、収穫時の労働力が不足する事態に陥っています。
この問題を解決するために、作業の軽労化による労働環境改善を図るため、パワーアシストスーツが導入されました。
パワーアシストスーツを「すいか」の収穫と運搬に活用したことで、
「収穫時の落とす事故が減少した」
「長時間作業の腰痛が軽減された」
「作業時間の削減に繋がった」
などの声が上がりました。
新しい作業者を外から呼び入れる前に、現在の雇用労力を効率的に活用するアプローチも行われています。
(参考)農林水産省「パワーアシストスーツ導入によるすいか収穫作業の軽労化」
その他、IoT・ICTを用いた農業の活用事例は以下をご覧下さい。
『【スマート農業】DX化の進む農業でのIoTの活用事例や製品を紹介』
『【農業】AIカメラ・クラウドカメラ・IoTカメラの活用事例4選』
まとめ
「IoT・ICTを活用した農業農業」が世の中に広がっていくことで、「労働力不足」「農作業の負担」を解消することが可能になります。
少子高齢化を迎える日本において、IoT・ICTを用いた農業の新しい形は、今後さらに拡大するでしょう。
IoTBiz編集部
2015年から通信・SIM・IoT関連の事業を手掛けるDXHUB株式会社のビジネスを加速させるIoTメディア「IoTBiz」編集部です。 DXHUB株式会社 https://dxhub.co.jp/ 京都本社 〒600-8815 京都府京都市下京区中堂寺粟田町93番地KRP6号館2F 東京オフィス 〒151-0053 東京都渋谷区代々木1-25-5 BIZ SMART代々木 307号室
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