防犯カメラ映像の肖像権やプライバシー侵害、法律やガイドラインについて解説
防犯カメラ映像の肖像権やプライバシー侵害、法律やガイドラインについて解説
防犯カメラは、公共の場所だけでなく、コンビニの店内や家庭の庭先など、様々な場所で防犯や防災の目的で使用されています。近年の技術進化により、防犯カメラは暗い場所や動きのあるシーンでも高性能に映像を記録できるようになりました。この高性能化は防犯や防災において有益である一方で、通行人や利用者の鮮明な映像を得ることで、個人のプライバシーが侵害される懸念もあります。 この記事では、防犯カメラの設置や使用に伴うプライバシー侵害の危険性について、具体的なガイドラインや判例を交えて詳しく解説します。
目次
防犯カメラは肖像権やプライバシー侵害になる可能性がある
最近の監視カメラは技術の進化により、特に高解像度の撮影・録画が可能な点が際立っています。これにより犯罪発生時の犯人特定などにおいて非常に優れた性能を発揮する一方で、日常生活では必要以上の情報を収集してしまう可能性があります。
たとえば、コンビニが出入り口周辺に防犯カメラを設置する際、その目的は犯罪防止であるにもかかわらず、映像にはコンビニ利用者だけでなく、周辺を歩く他の人々も映り込む可能性が考えられます。防犯カメラの映像が特定の個人を識別可能な場合、それは個人情報保護法における「個人情報」に該当します。この情報には法に従った適正な取り扱いが求められ、怠るとプライバシー侵害のリスクがあります。
まずは、防犯カメラの設置がプライバシー侵害や肖像権侵害になる可能性がある場合をいくつか紹介します。
監視の範囲と目的の不明確な場合
防犯カメラの設置が行われる場所やその目的が十分に明確でない場合、無差別に人々を監視することになりかねません。例えば、プライバシーに配慮するために公共の場では適切な目的と範囲を示すことが求められます。設置された場所が限定的で合理的な目的がある場合であっても、その目的が一般の人に対して十分に説明されていない場合、プライバシー侵害の懸念が生じます。
録画と保存期間の不適切な設定の場合
防犯カメラが録画を行い、その映像が不必要に長期間保存される場合、これがプライバシー侵害につながります。また、録画映像が不正にアクセスされたり漏洩したりする可能性も考慮する必要があります。
個人の特定可能な場合
防犯カメラが公共の場で個人の顔や個人情報を特定できるほど高解像度である場合、それが肖像権侵害となり得ます。一般的に、公共の場での監視においても、個人を特定できるような細かい情報は配慮が必要です。
不当な監視の対象の場合
防犯カメラが不当に特定の個人やグループを対象として監視されている場合、それは差別やプライバシー侵害の問題となります。
防犯カメラ映像とプライバシー侵害、肖像権問題のニュース
次に、実際に防犯カメラによるプライバシー侵害、肖像権問題のニュースをいくつかみていきましょう。
2024年パリオリンピック
2024年夏季オリンピックに向け、パリでは前例のないテクノロジー監視が展開中です。フランス政府は、都市全体で数百台のAI搭載カメラを使用し、群衆と公共空間を監視し、不審な活動を検出すると当局にアラートを送る監視体制を整備しています。この取り組みはテロ攻撃防止を目指す支持者がいる一方で、プライバシー保護派は技術による過剰監視への懸念を示しています。
新しいビデオ監視プログラムは、「Loi JO 2024」法に基づき今年初めに可決され、公共の安全を脅かす行動をリアルタイムで監視するためのカメラ映像解析を認めています。この監視はオリンピック終了後も2025年3月まで続く予定です。
スマートカメラのソフトウェアは政府と契約した民間企業によって開発され、既存の映像からイベントに似た状況を学習しています。AIの警告トリガーには、置き去りの物品、武器、制限エリアへの不正アクセス、混乱した群衆などが含まれます。顔認識や個人識別技術は禁止され、スマートカメラは状況のみを検出し、警察が確認後に対応します。
しかし、デジタル権利擁護団体は、この新しいシステムの監視権限拡大に慎重な立場をとり、オリンピック後の運用に対する不安を表明しています。特定の活動家や抗議者が対象になる可能性についても懸念があります。
詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
『パリ五輪のAIカメラ監視計画がプライバシー懸念を引き起こす』
京都・滋賀を走る京阪電気鉄道
京都府と滋賀県の列車では、防犯カメラの設置が進展しています。2021年には東京都の小田急線や京王線で発生した無差別な傷害事件が相次ぎ、これに対するテロや犯罪の対策として、国土交通省が防犯カメラの設置を義務化する方針を採用しています。
ただし、適切な運用が求められる中で、プライバシー侵害の懸念も浮上しており、専門家は乗客の安全とプライバシーを同時に確保する工夫が必要だと指摘しています。
京阪電気鉄道では、ドアの上部に黒い四角形の部分があり、これが防犯カメラとなっています。横には「防犯カメラ作動中」との表示がされています。犯罪の抑止を目的に2017年に導入が始まり、昨年12月時点で639両中52両に設置されているとのことです。
(参考)京都や滋賀の列車で進む防犯カメラ設置 つきまとうプライバシー侵害の懸念|社会|地域のニュース|京都新聞
米国Amazonの「リング」「アレクサ」
米連邦取引委員会(FTC)は5月31日、アマゾンが音声認識AI「アレクサ」と防犯カメラ「リング」によるプライバシー侵害に関する訴訟で、アマゾンが3千万ドル(約42億円)超の和解金を支払うことで合意したと発表しました。この和解は、最新のAI技術の競争が激化する中で、IT大手のデータ収集手法に対する警告となっています。
FTCによれば、リングの機器で撮影された利用者の動画について、アマゾンの従業員が閲覧可能な状態にあったとしています。ある従業員は数カ月にわたり、女性利用者の自宅の浴室や寝室に設置されたカメラの動画を数千件閲覧していたとされ、FTCは対象の動画を削除するよう求め、580万ドル(約8億円)の支払いを命じました。
また、FTCはアマゾンのアレクサが子どもの音声データを不正に保管したとして、2500万ドル(約35億円)の支払いを命じました。アマゾンは利用者が音声データを削除できると説明しながら、親からの削除要求にもかかわらず子どもの音声や位置情報データを何年も保管し、アレクサのAIアルゴリズムの改善に使用していたとの指摘があります。
(参考)アマゾン、プライバシー侵害42億円で和解 カメラ動画のぞき見も:朝日新聞デジタル
日本全国の防犯カメラの設置数
IHS Markitの2020年の調査によれば、「全世界には7億7000万台のカメラが存在し、2021年中には10億台に達する見込み」です。また、日本の設置台数は、500万台以上とされています。
設置台数のランキングでは、1位が中国、2位がアメリカ、3位がロシアで、その後に日本がドイツやイギリスと肩を並べてトップ5にランクインしています。人口比率(1000人あたりの設置台数)で比較すると、アメリカが152.8台、イギリスが75.2台、ドイツが62.7台に対し、日本は39.5台と大きな差があります。
(参考)世界の監視カメラ設置、今後2年で10億台突破へ | The Wall Street Journal発 | ダイヤモンド・オンライン
防犯カメラと肖像権やプライバシーに関する法律
ここからは、防犯カメラと肖像権やプライバシーに関する法律について紹介していきます。
肖像権
肖像権は、自分の容姿や写真、動画に映る自分の肖像に関する権利を指します。個人の肖像は無断で写真を撮られたり公開されたりしないよう、法律によって保護されています。特にモデルやアイドルの場合、肖像権は資産価値としても意味を持ちます。
防犯カメラによる撮影が肖像権の侵害になるケースは稀ですが、その映像を無断で公開すると肖像権の侵害になる可能性があります。
プライバシー権
プライバシー権は、他人に自分の生活やプライベートをさらされない権利です。この権利は、個人が平穏に生活できるように法律で保護されています。防犯カメラが他人の私生活まで撮影する場合、これはプライバシー権の侵害になる可能性があります。
例えば、自宅の防犯カメラが隣の庭を映し出すだけでも、これはプライバシーの侵害となる可能性があります。画面の端であっても他人のプライバシーに関わる範囲を撮影することは許容されません。
個人情報取扱事業者(企業の場合)
企業が防犯カメラを使用して他人の肖像権やプライバシー権を侵害する場合、その企業は「個人情報取扱事業者」となります。この場合、映像の保管には責任が伴い、映像の流出や紛失、無断利用によっては法的な責任が問われる可能性があります。したがって、企業は慎重に防犯カメラの運用を行う必要があります。
防犯カメラ設置に関するガイドライン
法律を整理できたら、次は、防犯カメラ設置に関するガイドラインについてみていきましょう。
経済産業省・総務省によるカメラ映像の利用に関するガイドライン
経済産業省・総務省の『カメラ画像利活用ガイドブックver3.0』では、以下のようにプライバシー保護に関する指摘をしています。
生活者のカメラ画像利用にはプライバシー保護が不可欠です。合理的な期待範囲内での損害を防ぐため、プライバシー保護は極めて重要です。生活者の顔や姿の不適切な撮影・公表を防ぐため、プライバシーや肖像権は厳格に法的に保護されています。これに違反すると損害賠償や差止請求が認められます。
生活者の画像が公表され、不利益が生じる場合が法的に問題とされています。画像の取得自体も侵害になる場合があることに留意が必要です。
重要な対策
(1)正当な目的と必要性:カメラ画像の利用目的は正当であり、かつ撮影が必要な場合に限られます。
(2)適切な方法:撮影や利用は相当であり、かつプライバシーへの影響が適切な範囲内です。
(3)法的適法性:不適切な利用が法的に認められていないこと。違法な場合は個人情報保護法上も問題です。
注意すべき点
違法でなくても、生活者のプライバシーリスクに適切に対応できていない場合、技術やサービスが受け入れられなくなり、企業には損失が生じる可能性があります。プライバシーは個人差や社会的受容性の変動があるため、法令や技術の動向に加え、真摯な検討と適切なコミュニケーションが不可欠です。
(参考)「カメラ画像利活用ガイドブックver3.0」を策定しました (METI/経済産業省)
(参考)総務省|報道資料|「カメラ画像利活用ガイドブックver3.0」の公表
個人情報保護委員会による防犯カメラに対するガイドライン
個人情報保護委員会は、カメラを使って写真や顔の特徴を扱う際に気をつけるべきポイントについて以下のように説明してます。
個人情報を取り扱う事業者は、法律の第23条に基づいて、個人データの安全管理対策を取ることが求められています。特に、カメラ画像や顔の特徴データなどが個人データに該当する場合、その性質を考慮して、データの漏えいや滅失、毀損を防ぐための必要で適切な対策を講じる必要があります。以下は、組織的、人的、物理的、技術的な安全管理措置、および外的環境の把握として考えられるいくつかの対策です。
(1)組織的安全管理措置:カメラ画像や顔の特徴データを扱う情報システムの使用者を限定し、責任者を明確にし、事業者内でのルールや規程を整備します。
(2)人的安全管理措置:従業者に適切な研修を行い、個人情報保護法やデータの扱いについて理解を深めます。
(3)物理的安全管理措置:カメラやデータを保存する機器の盗難や紛失を防ぐために、設置場所に応じた適切な安全管理を行います。
(4)技術的安全管理措置:カメラ画像や顔の特徴データを扱う際、アクセス制御や漏えい防止策を講じます。例えば、パスワードの設定やアクセスログの監視を行います。
(5)外的環境の把握:もし他の国で個人データを扱う場合、その国の個人情報保護の仕組みを理解し、必要な対策を講じます。
カメラ画像や顔の特徴データが保有個人データに該当する場合は、これらの対策を本人が知ることができる状態に置く必要があります。ただし、本人に知らせることが安全管理に支障をきたす可能性のある場合は、本人に知らせる必要はありません。
地方自治体や市区町村による防犯カメラに対するガイドライン
上記で紹介した、経済産業省や総務省、個人情報保護委員会以外にも都道府県ごとや市区町村ごとなど様々な地方自治体でも防犯カメラ利用のガイドラインが出ています。
実際に防犯カメラを利用する際は、地方自治体のガイドラインを是非一度確認してみてください。
プライバシーや肖像権の侵害となった防犯カメラの裁判事例
最後は、プライバシーや肖像権の侵害となった防犯カメラの裁判事例を紹介します。
東京地方裁判所(平成27年11月5日)
東京地方裁判所が平成27年11月5日に下した判決によれば、原告のプライバシーがカメラの設置および撮影によって侵害されたと認定されました。この判決では、プライバシー権利に基づく妨害排除請求として、カメラの撤去が認められ、さらにプライバシー侵害に伴う慰謝料の金額も定められました。
プライバシー侵害に関する詳細
判決は、法的に保護されるべき人格的利益に基づき、撮影の合法性は場所、範囲、態様、目的、必要性、画像の管理方法などを総合的に考慮するべきであると指摘しています。判決では、撮影された場所、対象、目的、管理方法について認定され、原告の日常生活が撮影されることでプライバシーが著しく侵害されると結論づけられました。同時に、代替手段が存在することも考慮され、固定カメラによる撮影は社会生活上の受忍限度を超えるものとされました。
損害賠償請求について
カメラの撮影範囲が私的空間に及ぶものの、屋外であるため完全な私的空間ではないとの判断が示されました。防犯目的でのカメラ設置にも関わらず、代替手段が存在する場合、映像の自動上書きや保存期間が約2週間であっても、各原告の慰謝料として10万円が適切と判断され、その支払いが命じられました。
以上の判決から、物件への防犯カメラ設置には慎重な注意が必要であり、どのような場所や内容が撮影されるかを考慮することが重要です。違法行為と見なされる可能性がある場合、損害賠償請求が成立する可能性があるため、カメラの設置には十分な検討が必要です。
IoTBiz編集部
2015年から通信・SIM・IoT関連の事業を手掛けるDXHUB株式会社のビジネスを加速させるIoTメディア「IoTBiz」編集部です。
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