農業DXとは?構想内容やメリット、課題、スマート農業との違いを解説
農業DXとは?構想内容やメリット、課題、スマート農業との違いを解説
日本の農業は、高齢化や担い手不足、耕作放棄地の増加、海外産農産物との価格競争など多くの課題に直面しています。また、近年、農業界でもDXの波が広がっており、農業DXは先端テクノロジーを活用して農業プロセスを効率化し、生産性を向上させる取り組みです。具体的には、農業DXはロボット、AI、IoTなどのデジタル技術を導入して、安定した食料供給を実現し、消費者が価値を感じる農業を目指します。多様な消費者ニーズや後継者不足への対応には、デジタル技術の導入が不可欠であり、これにより農作業が省力化されつつ品質と生産量が向上します。 この記事では、農業DXの目的やメリット、農林水産省が掲げる「農業DX構想」、スマート農業との違い、農業DXの事例を解説していきます。
目次
農業DXとは
農業DXとは、AI、IoT、ビッグデータなどのデジタル技術を駆使して、事業・経営の変革を促進する概念です。2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」以降、DXは様々な産業で進展しており、農業もその中で進化しています。
農業DX構想では、主なDXの目的を「FaaS」の実現と位置づけ、幅広いバリューチェーンの改革を目指しています。デジタル技術の活用により、効果的な農業の実践が期待され、農業DX構想では、3つの分類において実証実験などが積極的に進められています。
農業DXの意義と目的
農業DXの意義は、高齢化や労働力不足などへの対応と同時に、デジタル技術を駆使して効率的な営農を実現し、消費者のニーズをデータで捉え、価値を実感できる形で農産物・食品を提供することです。農業DX構想では、農林水産省が2021年3月に発表し、「FaaS(Farming as a Service)」の実現を明確な目的として掲げています。
FaaSとは
FaaSは「サービスとしての農業」を指し、デジタル技術を活用して資材、農業者、農業団体、卸・物流、加工・食品、小売・外食、そして消費者のデータを共有し、バリューチェーン全体で変革を起こすことで、農業にまつわる多様な課題を解決します。
日本の農業が直面する主な課題
日本の農業が抱える主な課題は、「高齢化と担い手不足」「耕作放棄地の増加」そして「TPPによる価格競争の激化」の3つです。
高齢化と担い手不足
高齢化が進む中、特に基幹的農業従事者の平均年齢が上昇しており、農業の労働力が高齢化して後継者不足が深刻な問題となっています。若手農業者の増加が進まず、基幹的農業従事者の数が減少している状況が続いています。
耕作放棄地の増加
同時に、耕作放棄地や荒廃農地が増加しており、これは高齢化や労働力不足により、一部の農地が十分な管理を受けられなくなっている結果です。耕作放棄地が増えることで、食糧生産において重要な農地が失われ、地域の環境への悪影響も懸念されています。
TPPによる価格競争の激化
さらに、TPPに伴う農産物関税の撤廃により、外国産の農産物が市場に進出し、国内の農家にとって価格競争が一層激化しています。これに対処するために、農業者は効率化やコスト削減、独自の販路の確立など、多岐にわたる対策を講じる必要があり、それにより農業の経営面での負担が増大しています。
農林水産省が掲げる「農業DX構想」とは
「農業DX構想」は、2021年3月25日に農林水産省が発表した、農業および食関連産業における重要な指針です。この構想は、2020年3月31日に閣議で決定された食料・農業・農村基本計画から始まり、FaaS(Food as a Service)の変革を促進するために、さまざまなデジタル技術を活用したプロジェクトをまとめることが決まりました。
農業DX構想は、農業DX構想検討会の有識者によるもと、47のプロジェクトを「現場系」(生産現場や農業経営、流通、食品産業など)、農林水産省が主体となる「行政実務系」、そして現場と農林水産省を結ぶ「基盤整備」の3つに分類しています。これらのプロジェクトは、「農業DX構想 〜「農業×デジタル」で食と農の未来を切り拓く〜 」という資料に詳細にまとめられ、公開されています。
同資料では、政府が掲げる「デジタル3原則」と「デジタル社会を形成するための10の基本原則」に基づいた農業DXの推進など、6つの基本的な方向も明確に述べられています。これにより、農業DXが持続可能な未来を切り拓くための指針となっています。
(参考)農業 DX 構想~「農業×デジタル」で食と農の未来を切り拓く~2021 年(令和3年)3月|農業 DX 構想検討会
(参考)「農業DX構想」~「農業×デジタル」で食と農の未来を切り拓く~(要約版)|農林水産省
(引用)「農業DX構想」の概要 < 農業・食関連産業のデジタル変革(DX)推進の羅針盤・見取り図 >
農業DXの意義と目的
農業者の高齢化や労働力不足が進む中、デジタル技術を活用して効率の高い営農を実行しつつ、消費者ニーズをデータで捉え、消費者が価値を実感できる形で農産物・食品を提供していく農業(FaaS: Farming as a Service)への変革の実現
農業DXにより実現を目指す姿
農業や食関連産業に携わる方々がそれぞれの立場で思い描く「消費者ニーズを起点にしながら、デジタル技術で様々な矛盾を克服して価値を届けられる農業」
例)
・少人数でも超効率的な大規模生産を実現
・多様な消費者ニーズに機動的に対応した食料を生産・供給
・高齢者・新規就農者でも高品質・安定生産を実現
・条件不利地でも適地適作で高付加価値農産物を生産・販売
農業DXとスマート農業の違い
農業DXと共に近年よく耳にするようになった「スマート農業」ですが、それぞれの違いについてみていきましょう。
スマート農業は、ロボット技術やICTなどの先端技術を駆使し、新しい農業形態を構築することで、超省力化や高品質生産などを実現します。このアプローチは、主に農業の生産現場でデジタル技術を導入することに焦点を当てています。
一方で、農業DXは、生産性向上だけでなく、データ活用によって新たな農業ビジネスの創出や付加価値の形成なども対象としています。農業の生産現場だけでなく、流通、小売り、消費者、農業行政などを含む広範なデジタル化を指します。
言い換えれば、スマート農業は、農業DXに向けた取り組みの一環と位置づけられます。
「スマート農業」について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
『スマート農業】目的やメリット、課題、IoTの活用事例を紹介』
農業DXのメリット
ここからは、農業DXの主なメリットを紹介します。
生産性向上につながる
農業DXによる生産性向上は、デジタル技術の導入により、伝統的な農作業が自動化・省力化され、例えば自動化された植付けや収穫のプロセスによって、手動作業に比べて大幅に効率が向上します。これにより、生産者は他の業務や品質管理に集中でき、省人化が進めば人手不足の問題が解消され、作業環境の向上も期待されます。
コスト削減につながる
農業DXによる生産性向上は、人件費削減につながります。労働力の自動化により人手コストが低減し、作業の精度向上も期待されます。また、気象データや生産データ、取引データなどのデジタル情報の活用により、リアルタイムでの需要予測や生産計画の効率的な策定が可能となり、無駄な生産コストを削減できる見込みです。
環境保護促進につながる
農業DXによる環境保護は、効率的で持続可能な農業の実現に貢献します。精密農業技術やデータ分析を活用して必要以上の資源使用を抑制し、環境負荷を最小限に抑えます。また、有機農業や地産地消の推進など、新たな環境に配慮した農業手法が促進され、従来の農業に比べて環境への影響が低減します。
品質向上につながる
農業DXによる品質向上は、生産プロセスのデジタル管理に基づきます。センサーテクノロジーやモニタリングを通じて、作物や畜産物の成長や状態がリアルタイムで把握され、品質に影響を及ぼす異常や問題が早期に検知されます。これにより、品質管理が従来よりも正確で迅速に行え、高品質な農産物の生産が可能となります。
リアルタイムな意思決定ができる
デジタル技術の導入により、生産データや市場動向などの情報がリアルタイムで入手可能になります。これにより生産者は迅速かつ柔軟に需要や供給の変動に対応し、リアルタイムな意思決定が可能です。迅速な意思決定により、生産者は競争力を維持・向上させることが期待されます。
新たな収益源の開発ができる
農業DXは新しいビジネスモデルやサービスの創出を促進します。例えば、デジタルマーケティングや直接消費者への販売チャネルの拡大などがあり、これによって新たな収益源が開発される可能性があります。これは生産の合理化だけでなく、新しい付加価値を創造し、市場の需要に対応する手段となります。
農業DXの課題
日本の農業DXにはいくつかの課題が浮かび上がっています。ここからは、それらの課題をみていきましょう。
デジタル化の遅れ
日本全体でデジタル化が遅れており、行政や企業、特に農業分野でのデジタル技術の導入が進んでいません。これが、給付金の申請や支払いの混乱、リモートワークの不備などにつながっています。農業DXの推進においては、デジタル化への積極的な取り組みが求められます。
経済停滞の影響
コロナ禍により社会経済活動が停滞し、これが農業や食関連産業にも影響を与えています。需要の変動や供給の制約が発生し、これに柔軟に対応する仕組みが求められています。新しい消費ニーズに対応するために、農業DXがより迅速かつ効果的に展開される必要があります。
不確実性の高まり
現在の社会は不確実性が高まっており、将来の見通しを立てることが難しい状況です。これが、事業計画や政策の策定を難しくしています。農業分野でも、需要と供給の変化や労働力の減少など、様々な不確実性に対応するための柔軟な計画が求められます。
非効率な行政運営
行政の運営が非効率であり、デジタル化が進んでいないことが農業DXの遅れにつながっています。各種給付金の混乱や対面での対応が前提であるなど、行政の効率性向上が必要です。
インフラ整備の不足
農業DXには通信インフラや土地整備、基地局の整備が必要ですが、これが不足しています。特に農村地域においては通信インフラが整備されていないことが課題となっています。国全体のインフラ整備が求められます。
作業効率化や品質向上への課題
ドローンやセンサーによる作業効率化やデータ収集による品質・生産性の向上には、一定の投資が必要であり、そのバランスがまだ実証できていません。また、データを収集・活用していない農家が多いことや、農地情報のデジタル化が進んでいないことも課題となっています。
消費者との情報共有の不足
農業者や販売事業者と消費者との接点が限定的であり、生産から販売までの情報共有が不十分です。消費者のニーズに対する感度が低いこともあり、より効果的な情報共有が求められています。
農業DXの事例
最後は、農業DXの事例を紹介していきます。
宮城県石巻市で生産性向上に貢献するAI病害虫雑草診断アプリ
宮城県石巻市の農業者は、スマホアプリを駆使して病害虫の診断や対策の選定を効果的に行い、生産性の向上に取り組んでいます。具体的にはAI病害虫雑草診断アプリ「レイミー」を利用し、スマートな生産管理を実現しています。
(参考)農業DXの事例紹介(13)AI病害虫雑草診断アプリを活用して生産性を向上:農林水産省
栃木県高根沢町の圃場モニタリングで「いつものイチゴ」を追求
栃木県高根沢町の加藤いちご園では、農家経験を基にIT技術を活用し、圃場モニタリングを導入しています。これにより、温度管理を徹底し、「いつものイチゴ」を追求する姿勢が生まれ、生産効率が向上しています。
(参考)農業DXの事例紹介(12)「いつものイチゴ」をつくるための温度管理、ITセンサー活用:農林水産省
富山県高岡市の水門管理自動化システムで省力化と品質向上
富山県高岡市の農業者は、IoTセンサーを活用した水門管理自動化システムを導入し、コスト削減と品質向上の両方を実現しています。この取り組みにより、生産性が向上し、経営規模の拡大を達成しています。
(参考)農業DXの事例紹介(11)水門管理自動化システムの活用による省力化、生産性の向上:農林水産省
静岡県で展開されるデジタルでつながる新しい青果流通
静岡県の仲卸業者、小売業者、農業者がデジタルツールを駆使して新しい青果流通の仕組みを構築し、消費者へ新鮮な青果を届ける挑戦が行われています。これにより、農業と流通がスムーズにつながり、市場において新たな展開が生まれています。
(参考)農業DXの事例紹介(10)農家と顧客をデジタルでつなぐ新しい流通:農林水産省
神奈川県で実践される農業者と青果流通事業者のデジタル化
神奈川県の農業協同組合と卸売企業は、青果流通の現場でスマホやPCを活用して集荷情報のやり取りなどをデジタル化し、流通現場業務を効率化しています。これにより、農産物の効率的な流通が実現されています。
(参考)農業DXの事例紹介(9)農業者と青果流通事業者間のやり取りのデジタル化による流通現場業務の効率化と見える化:農林水産省
鹿児島県枕崎市で進むデータを活用した農業経営の改善
鹿児島県枕崎市の花き農業者は、経営管理サービスを駆使してデータを活用し、売上拡大と事業効率化に取り組んでいます。これにより、経営の高度化が図られ、成功を収めています。
(参考)農業DXの事例紹介(8)データを活用した農業経営の改善:農林水産省
宮崎県での施設園芸におけるデータ活用
宮崎県の施設園芸を営む農業者のグループは、環境制御システムから得られるデータを活用して生産の拡大と経営の改善・発展に成功しています。データの見える化により、迅速な意思決定が可能となり、効率的な経営が行われています。
(参考)農業DXの事例紹介(7)施設栽培でのデータ活用による生産の拡大と経営の改善・発展:農林水産省
東京都府中市の農業者がスマートな農作物生産管理を実践
東京都府中市内の農業者は、スマートフォンで農作物の生産記録や農薬利用記録を管理できるアプリ「AgriHub」を利用し、農作物生産を省力化・効率化しています。これにより、生産プロセスが迅速かつ効果的に管理されています。
(参考)農業DXの事例紹介(6)スマホを使った農作物生産記録・農薬利用記録管理:農林水産省
鹿児島県曾於郡大崎町での農業経営の見える化
鹿児島県曾於郡大崎町では、農業経営分析支援ソフトを活用して、野菜の生産・加工・販売を行っている有限会社大崎農園さんが営農データの見える化に成功しています。これにより、経営戦略の立案が容易になり、農業経営の高度化が図られています。
(参考)農業DXの事例紹介(5)営農データの見える化による農業経営の高度化:農林水産省
北海道中標津町でのデータ分析を駆使した牛群管理
北海道中標津町の株式会社さいとうFARMは、データ分析を活用して牛群管理や個体選抜を行い、酪農経営を成功に導いています。データの活用により、効率的な牛群管理が実現され、生産性が向上しています。
(参考)農業DXの事例紹介(4)データを活用した牛群管理・個体選抜:農林水産省
新潟県新発田市で展開されるドローンによるデータ解析
新潟県新発田市の有限会社アシスト二十一は、ドローンを活用したデータ解析に力を入れています。この取り組みにより、農業プロセスの可視化や効率的な運用が可能となり、生産性向上に寄与しています。
(参考)農業DXの事例紹介(3)ドローンで得られたデータの活用:農林水産省
神奈川県芽ヶ崎市のオンライン直売所を通じた生産者と顧客の交流
神奈川県芽ヶ崎市内の生産者は、オンライン直売所「食べチョク」を活用して、農林漁業者と個人の顧客が直接商品を交流する新しい形態の青果流通を実現しています。これにより、生産者と顧客のコミュニケーションが促進され、地域の農業振興が進んでいます。
(参考)農業DXの事例紹介(2)オンライン直売所を通じた顧客と生産者のダイレクトな交流:農林水産省
石川県野々市市のぶった農産のスマートライスセンター
石川県野々市市の株式会社ぶった農産では、米の生産から農作物の加工・販売までを展開するスマートライスセンターを紹介します。データを活用した効率的な経営が行われ、地域経済への貢献が実現しています。
(参考)農業DXの事例紹介(1)ぶった農産のスマートライスセンター:農林水産省
IoTBiz編集部
2015年から通信・SIM・IoT関連の事業を手掛けるDXHUB株式会社のビジネスを加速させるIoTメディア「IoTBiz」編集部です。 DXHUB株式会社 https://dxhub.co.jp/ 京都本社 〒600-8815 京都府京都市下京区中堂寺粟田町93番地KRP6号館2F 東京オフィス 〒151-0053 東京都渋谷区代々木1-25-5 BIZ SMART代々木 307号室
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