在庫管理×IoTとは？導入メリットや活用技術、成功事例をわかりやすく解説
在庫管理×IoTとは？導入メリットや活用技術、成功事例をわかりやすく解説
IoT
2025-12-18
7min
IoTを在庫管理に導入することで、在庫状況のリアルタイム把握、棚卸業務の効率化、欠品や過剰在庫の防止といった効果が期待できます。本記事では、在庫管理にIoTを活用する基本的な仕組みから、具体的なメリット、活用される技術、導入事例、システムの選び方まで詳しく解説します。
目次
在庫管理にIoTを活用するとは？基本を解説
まずは、在庫管理にIoTを活用する基本的な考え方と仕組みについて解説します。
IoTとは「モノのインターネット」
IoT（Internet of Things）とは、日本語で「モノのインターネット」と訳される技術です。さまざまなモノにセンサーや通信機能を搭載し、インターネットを介してデータを収集・送受信する仕組みを指します。
身近な例としては、スマートスピーカーやスマートウォッチ、スマート家電などが挙げられます。ビジネス分野では、工場の設備監視、農業でのセンシング、物流での追跡管理など、幅広い用途で活用されています。
IoTについてより詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
IoTとは？Internet of Things（モノのインターネット）の意味や仕組み、事例を解説｜IoTBiz
在庫管理におけるIoTの役割
在庫管理にIoTを活用する場合、棚やパレット、商品などにセンサーやタグを設置し、在庫数や位置情報をリアルタイムで取得します。取得したデータはクラウド上に送信され、パソコンやスマートフォンから遠隔で確認できるようになります。
IoTを活用した在庫管理の主な役割は以下のとおりです。
・在庫数の自動計測・記録
・在庫位置の追跡・把握
・入出庫情報の自動取得
・在庫減少時のアラート通知
・発注業務の自動化
これらの機能により、在庫管理に関わる多くの業務を自動化・効率化できます。
従来の在庫管理との違い
従来の在庫管理では、担当者が現場に出向いて目視で在庫を確認し、紙やExcelに手入力するのが一般的でした。この方法では、以下のような課題が生じやすい傾向にあります。
・確認から入力までにタイムラグが発生する
・入力ミスや数え間違いが起こりやすい
・棚卸に多くの人員と時間が必要になる
・帳簿と実在庫の差異が生じやすい
IoTを導入することで、これらの課題を解消し、正確かつリアルタイムな在庫管理が実現します。
在庫管理にIoTを導入する5つのメリット
在庫管理にIoTを導入することで得られる主なメリットを5つ紹介します。
リアルタイムで在庫状況を把握できる
IoTセンサーを活用することで、在庫状況をリアルタイムで把握できるようになります。従来のように現場に出向いて確認する必要がなく、オフィスや外出先からでもスマートフォンやパソコンで在庫数を確認できます。
リアルタイムで在庫情報を把握できることで、欠品リスクの早期発見や、急な受注への迅速な対応が可能になります。
棚卸業務の工数を大幅削減できる
棚卸は在庫管理業務の中でも特に負担が大きい作業です。IoTを導入することで、在庫データが自動で記録されるため、棚卸にかかる工数を大幅に削減できます。
従来は週に3回、各1時間かけていた在庫確認作業が、IoT導入後は週1回、30分〜1時間程度まで短縮できたという導入事例もあります。浮いた時間を本来の業務に充てることで、生産性の向上にもつながります。
ヒューマンエラーを防止できる
手作業による在庫管理では、数え間違いや入力ミスといったヒューマンエラーが発生しやすくなります。IoTを導入すれば、センサーが自動でデータを取得・記録するため、人為的なミスを大幅に削減できます。
正確な在庫データを維持できることで、帳簿と実在庫の差異がなくなり、出荷時のトラブルや欠品による機会損失を防ぐことができます。
適正在庫の維持が容易になる
IoTによるリアルタイムな在庫把握と、あらかじめ設定した閾値に基づくアラート機能により、適正在庫を維持しやすくなります。在庫が一定量を下回った際に自動で通知を受け取ることで、欠品を未然に防ぐことができます。
また、在庫データの蓄積・分析により、過剰在庫の傾向を把握して発注量を最適化することも可能です。在庫コストの削減とキャッシュフローの改善につながります。
データ活用による需要予測が可能になる
IoTで収集した在庫データを蓄積・分析することで、需要予測の精度を高めることができます。季節変動やプロモーションの影響、過去の消費パターンなどを考慮した高度な分析が可能です。
AIや機械学習と組み合わせることで、より精度の高い需要予測を実現し、適切なタイミングでの発注や在庫レベルの最適化につなげている企業も増えています。
在庫管理に活用される主なIoT技術
在庫管理に活用されるIoT技術にはさまざまな種類があります。それぞれの特徴を理解し、自社の管理対象や課題に合った技術を選ぶことが重要です。
IoT重量計（スマートマット）
IoT重量計は、在庫を載せるだけで重量から在庫数を自動計測できるデバイスです。代表的な製品として「スマートマットクラウド」などがあります。
IoT重量計の主な特徴は以下のとおりです。
・置くだけで設置完了、大規模な工事が不要
・バーコード読み取りなどの作業が不要
・液体や粉体、小さな部品なども管理可能
・閾値設定による自動通知・自動発注に対応
・冷蔵庫や冷凍庫内でも使用可能
導入のしやすさから、初めてIoT在庫管理を導入する企業にも適しています。
スマートマットクラウド
RFID（ICタグ）
RFID（Radio Frequency Identification）は、電波を使って非接触でICタグの情報を読み書きする技術です。商品や資材にRFIDタグを取り付け、専用のリーダーで情報を読み取ります。
RFIDの主な特徴は以下のとおりです。
・複数のタグを一括で読み取り可能
・段ボールに入った状態でも読み取り可能
・バーコードより多くのデータを格納できる
・データの書き換えが可能（書き換え可能タグの場合）
大量の商品を一度に検品する必要がある製造業や物流業で特に効果を発揮します。ただし、金属や水分の影響を受けやすい点には注意が必要です。
ビーコン
ビーコンは、Bluetoothを用いて無線信号を発信する小型デバイスです。ビーコンを在庫品に取り付け、倉庫内に設置したセンサーで信号を受信することで、在庫の位置情報や入出庫状況を把握できます。
ビーコンの主な特徴は以下のとおりです。
・エネルギー効率が良く省電力
・設置が簡単で導入しやすい
・在庫の位置追跡に適している
・アラーム機能付きのものもあり、紛失防止にも活用可能
広い倉庫での在庫位置管理や、高価な資産の追跡管理などに適しています。
バーコード・QRコード×ハンディターミナル
商品に貼られたバーコードやQRコードをハンディターミナルで読み取り、在庫管理システムと連携させる方法です。古くから使われている技術ですが、IoT技術と組み合わせることでさらに効率化が図れます。
ハンディターミナル連携の主な特徴は以下のとおりです。
・導入コストが比較的低い
・既存のバーコード運用を活かせる
・在庫管理システムとのデータ連携が容易
・発注点の予測精度が向上
読み取り作業は必要ですが、手書き入力に比べて大幅な効率化が実現できます。
画像認識技術
カメラとAIを組み合わせた画像認識技術も、在庫管理に活用されています。カメラで撮影した画像をAIが解析し、商品の種類や数量を自動で認識します。
画像認識技術の主な特徴は以下のとおりです。
・タグやラベルの貼り付けが不要
・視覚的な在庫状況の確認が可能
・商品の状態（破損など）も検知可能
ただし、照明条件や商品の配置によって認識精度が変わる場合があるため、導入環境の検証が必要です。
IoT在庫管理の導入事例
実際にIoT在庫管理を導入した企業の事例を業界別に紹介します。
製造業での導入事例
製造業では、部品や資材の在庫管理にIoTが活用されています。
伸和コントロールズ株式会社の九州事業所では、半導体やフラットパネルディスプレイの製造に必要な副資材の在庫管理にIoT重量計「SmartMat Cloud」を導入しました。導入前は、手作業での管理による入力ミスや記録漏れで理論上の在庫と実際の在庫が食い違い、週15時間以上の入出庫作業や、1回あたり60時間を超える棚卸業務が現場の大きな負担となっていました。
導入後は、棚卸工数を約50％削減し、欠品や過剰在庫も解消しました。在庫を「置くだけ」で自動管理できるようになり、業務効率が大幅に向上しています。
（参考）在庫管理DXで1回あたり60時間かかっていた棚卸工数を約50%削減！“置くだけ”管理で、欠品と過剰在庫を一挙に解消 | 株式会社エスマットのプレスリリース
製造業でのIoT活用についてより詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
製造業でIoT化を推進するメリットや課題、事例を紹介｜IoTBiz
物流・倉庫業での導入事例
物流・倉庫業では、パレットや輸送容器の管理にIoTが活用されています。 東レ株式会社では、ユーピーアール株式会社（upr）が開発したアクティブRFIDタグ搭載「スマートパレット」を業界で初めて導入しました。
このスマートパレットは、電波が最大300m届くアクティブRFIDタグを搭載しており、専用リーダーとの組み合わせでパレットの場所把握と製品の入出庫管理がリアルタイムで可能になります。 導入の結果、製品の積み下ろし時間を75％短縮（年間約23,788時間削減）、事務作業時間を100％削減（年間約1,584時間削減）、トラック待機時間を38％削減（年間約5,947時間削減）するなど、大幅な業務効率化を実現しました。また、パレット紛失リスクの低減や物流事故（破袋）の35％削減にも貢献しています。
（参考）アクティブRFIDタグ搭載「スマートパレット®」を利用した取り組みにおいて グリーン物流パートナーシップ会議「特別賞」を共同受賞
医療機関での導入事例
医療機関では、医薬品や医療材料の在庫管理にIoTが活用されています。
訪問診療を行うあおばリガーレクリニックでは、24時間365日対応の診療を提供する中、昼間はスタッフが不在となり在庫管理に十分な時間を確保できませんでした。手作業での管理では在庫の欠品や過剰在庫、使用期限切れの廃棄が課題となり、在庫が複数の場所に点在して必要な物品を探す手間も大きな負担でした。
IoT在庫管理システム「SmartMat Cloud」を導入した結果、在庫のリアルタイム把握と自動発注が可能になり、欠品や過剰発注を大幅削減しました。物品の置き場所も統一されたことで探す時間が短縮され、医療スタッフは本業である医療業務に専念できる環境が整いました。
（参考）多忙な訪問診療でも“置くだけ”管理で欠品や過剰在庫を大幅に削減！スタッフの負担を減らし、医療に専念できる環境を実現 | 株式会社エスマットのプレスリリース
小売業での導入事例
小売業では、店頭在庫やバックヤード在庫の管理にIoTが活用されています。
大手アパレル企業の株式会社ワールドでは、店舗の生産性向上と棚卸業務効率化を目指し、東芝テック株式会社のRFIDシステムを導入しました。全ての商品にRFタグを取り付け、RFIDハンドリーダーで一括読み取りすることで、スピーディーな棚卸や特定商品の探索が可能になりました。
2025年2月から導入を開始し、現在は約1,100店舗でRFIDシステムが稼働しています。今後は倉庫入出荷業務にもRFID技術を導入し、物流倉庫におけるさらなる業務効率改善を目指しています。
（参考）東芝テック、ワールドが展開するアパレル店舗にRFIDシステムを導入
自社の課題を明確にする
まずは、現在の在庫管理で抱えている課題を明確にしましょう。棚卸の工数を削減したいのか、欠品を防ぎたいのか、在庫の位置を把握したいのかによって、最適なソリューションは異なります。
課題を明確にしないまま導入を進めると、「思っていたよりも使い勝手が良くない」「自社の在庫管理には向いていない」といった結果になる可能性があります。
管理対象の特性を考慮する
管理する在庫の特性によって、適した技術は異なります。
・小さな部品や液体・粉体の管理：IoT重量計が適している
・大量の商品を一括管理したい：RFIDが適している
・在庫の位置を追跡したい：ビーコンが適している
・金属製品の管理：RFIDは金属の影響を受けやすいため注意が必要
管理対象の大きさ、形状、材質、数量などを考慮してシステムを選定しましょう。
費用対効果を検証する
IoT在庫管理システムの導入には、初期費用（デバイス購入費、設置費など）と運用費用（月額利用料、保守費など）がかかります。導入前に、削減できる工数やコストを試算し、費用対効果を検証することが重要です。
多くのIoT在庫管理サービスでは、具体的な料金は個別見積もりとなっています。複数のサービスから見積もりを取り、比較検討することをおすすめします。
サポート体制を確認する
新しいシステムを導入する際は、想定外のトラブルや疑問が生じる可能性があります。導入前・導入後のサポート体制が充実しているかを確認しましょう。
可能であれば、同業種での導入実績があるサービスを選ぶと、同様の課題に対するノウハウを持っている可能性が高く、安心です。
IoT在庫管理の導入で注意すべきポイント
IoT在庫管理の導入を成功させるために、注意すべきポイントを紹介します。
現場スタッフへの教育・フォローを徹底する
IoTデバイスを導入すると、現場の業務フローが大きく変わります。特にITリテラシーが高くないスタッフが多い場合、新しい作業手順に戸惑い、かえって業務効率が低下するリスクがあります。
導入前に十分な説明を行い、必要に応じて研修を実施しましょう。また、導入後も継続的にフォローアップを行い、スタッフの不満や疑問に対応することが重要です。
運用管理体制を整備する
IoTシステムは導入したら終わりではなく、継続的な運用管理が必要です。導入前の早い段階で、運用管理の体制を整備しておきましょう。
特に重要なのは以下の点です。
・システムの運用管理に当たる責任者の明確化
・トラブル発生時の対応フローの策定
・デバイスのメンテナンス・交換の計画
責任の所在と対応フローを明確にしておくことで、問題発生時にも迅速に対処できます。
セキュリティ対策を講じる
IoTデバイスはインターネットに接続するため、サイバー攻撃のリスクがあります。在庫情報の漏洩や不正アクセスを防ぐため、適切なセキュリティ対策を講じることが重要です。
導入するシステムのセキュリティ機能を確認するとともに、社内のセキュリティポリシーに沿った運用ルールを策定しましょう。
IoTのセキュリティについてより詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
IoTセキュリティとは｜リスク管理と安全な通信環境の構築方法を解説
まとめ
本記事では、在庫管理にIoTを活用するメリットや、活用される技術、導入事例、システムの選び方について解説しました。
在庫管理にIoTを導入することで、以下のようなメリットが期待できます。
・リアルタイムで在庫状況を把握できる
・棚卸業務の工数を大幅削減できる
・ヒューマンエラーを防止できる
・適正在庫の維持が容易になる
・データ活用による需要予測が可能になる
活用される主な技術としては、IoT重量計、RFID、ビーコン、バーコード・QRコード×ハンディターミナル、画像認識技術などがあります。それぞれに特徴があるため、自社の課題や管理対象の特性に合わせて選定することが重要です。
IoT在庫管理の導入を検討する際は、まず自社の課題を明確にし、費用対効果を検証したうえで、サポート体制の充実したサービスを選ぶことをおすすめします。現場スタッフへの教育や運用管理体制の整備、セキュリティ対策も忘れずに行いましょう。
IoT技術を活用した在庫管理は、業務効率化とコスト削減を実現する有効な手段です。自社に合ったIoTソリューションを導入し、在庫管理のDXを推進してみてはいかがでしょうか。
IoTBiz編集部
2015年から通信・SIM・IoT関連の事業を手掛けるDXHUB株式会社のビジネスを加速させるIoTメディア「IoTBiz」編集部です。
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