製造業でIoT化を推進するメリットや課題、事例を紹介
製造業でIoT化を推進するメリットや課題、事例を紹介

IT技術の進化により、インターネットとモノをつなぐ「IoT」の導入が急速に進展しています。特に製造業においては、IoT化による作業効率化が進んでいることをご存じでしょう。当記事では、製造業におけるIoT化のメリットを6つ、課題とその解決策を3つ、そして導入の流れについて詳しく解説します。また、製造業でIoTを活用する際のポイントもご紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
製造業界で取りざたされる「IoT」とは何か
近年、製造業界ではIoTが続々と導入されています。しかし、IoTについて名前以外の情報を知らない人も多いでしょう。そこでまずは、IoTの特徴を3つに分けて紹介します。
IoTとはインターネットを介してモノと通信を行うこと
IoT(Internet of Things)とは、直訳すると「モノのインターネット」という意味があります。家具や家電、その他様々な「モノ」をインターネットに接続して、データ収集や相互共有に活用する概念です。
例えば、次の家電製品・公共サービスにIoTが利用されています。
・スマートスピーカー
・ペットモニター
・バスの運行状況チェックサービス
またIoTは、国交省が推進している「DX(デジタルトランスフォーメーション)」のうち、ビジネスへのデータとデジタル技術の活用に欠かせない要素です。消費者向けサービス以外にも、企業での導入が進んでいます。
「IoT」について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
『IoTとは?Internet of Things(モノのインターネット)の意味や仕組み、事例を解説』
製造業でIoT化が重要視される背景
経済産業省が公表している「2022年版ものづくり白書」によると、国内の製造業界は次に示す課題を抱えています。
・少子高齢化による人材不足
・資源不足に伴う材料費の高騰
・他国に比べて研究開発投資が低い
これは、少子高齢化が加速していることや新型コロナウイルスの拡大、また、日本の気候特有の自然災害などが原因です。この影響を受け、国内の製造業界はアメリカやEUといった国々と比べて成長が緩やかな状況です。ただし、日本は古くからの「ものづくり国家」であり、製造業はGDPの2割以上を占める大規模産業であることには変わりありません。
このような背景から、製造業のIoTの導入は現状の課題解決に欠かせない要素です。製造管理の品質向上、機械化の促進による人材不足の改善など多くの視点から注目が集まっています。
(参考)経済産業省「2022年版ものづくり白書」
日本の製造業におけるIoT化の現状は「二極化」
日本の製造業では、すでにIoT化が進行しています。中でも、デジタルデータを活用して業務プロセスの向上を実現する工場を「スマートファクトリー」と呼ぶことをご存じでしょうか。この工場にはIoTの技術はもちろん、機械学習、深層学習を含むAIが導入されています。
一方で、IoT化の実現には、ITの知識を持つ人材の確保が欠かせません。経済産業省が公開する「2022年版ものづくり白書」を見ると、製造業界の約4割が人材不足に悩んでいると分かります。

(参考)経済産業省「2022年版ものづくり白書」
製造業におけるIoT化は現在二極化した状態であるため、今後さらなるIT分野の人材確保や育成が必要です。
製造業におけるIoT化のメリット
国が推進する製造業のIoTですが、導入が進むとどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、6つのポイントに分けてメリットを紹介します。
1. 生産管理の自動化により客観的な生産計画を立てられる
IoTを導入すると、工場にある製造機やカメラなどの設備をインターネットに接続して生産管理の自動化ができます。
作業情報をデータで収集し、取得したデータをグラフや表にまとめることで効率的な生産管理が実現可能です。客観的な視点で生産計画を立てられることから、工場全体の生産性を高めることができるでしょう。
また、作業効率化の実現は、製造業の慢性的な課題である人材不足の解消効果も期待されています。
2. 製品の品質の向上と安定が見込める
製造業のIoT化により、次の効果が期待できます。
・製品の品質向上
・製造の安定化
工場機器の作業をデータベースで管理し分析できれば、製造する製品の品質状況を数値で判断できます。従来の人間による品質管理のコストを削減でき、機械による精度の高い品質チェックが行えます。
またIoTの導入は、製造の安定化につながるところも魅力のひとつです。材料管理や在庫管理、発注作業なども含めて、自動化の要素を組み込めるため、工場・現場の作業効率化が期待されています。
3. 人件費等コストを削減できる
従来の工場作業では製造ラインに作業員が並び、手作業で製造する場面が多くありました。管理を行う人材や機材の整備を行う人材など、製造業には多くの人件費がかかるのが現状です。
IoT化が進めば製造の機械化や自動化を実施できるため、人件費等にかかるコストを大幅に削減することが可能です。また、機材の整備自体を自動化できれば日々の整備にかかるコストを減らせるなどさらなるコスト削減も見込めるでしょう。
4. 製造ラインの稼働率を高められる
IoT化が進むことによって無人で工場運営ができるかといえば、そうではありません。ただし、製造ラインに必要である人材を最小限に抑えられます。
このとき大切なのが、各配置作業員の効率化です。例えば、作業員と設備の紐づけを行うQRコードを発行することで、従業員の勤務状況をデータで管理ができます。
IoT化はモノだけでなくそれを扱う作業員の稼働率を高める効果があることから「センサー」や「QRコードリーダー」といったIoT機器を導入する企業も増えています。
5. 熟練技師の技術をデータ化して伝承できる
工場作業の中には熟練技師でなければ行えない業務が多々あるため、若年層への技術継承が欠かせません。
従来の技術学習では、熟練技師の動きを目視で覚えたりマニュアルを読んだりする方法が一般的でした。
目の動きをデータ化する「アイトラッキングシステム」の導入が進めば、熟練技師の動きを見える化できます。収集したデータを使い技術継承を進めていけば、効率よく熟練技師の育成を実現できるでしょう。
6. 新規製品等の創出も可能となる
IoT技術によるデータ収集や分析を活用することで、既存製品の情報を基に新たなサービスを開発できます。例えば、IoT技術では次のような情報が分析可能です。
・製品提供後の情報追跡(利用者ニーズ)
・競合他社との情報・戦略の比較(自社の強み)
IoT技術は効率よく製品を製造するだけでなく、その後の分析に役立つところが特徴だといえます。他社が持っていない自社だけの強みを見つけるきっかけとなり、新規製品の創出や既存製品の改良などに活用できるでしょう。
製造業のIoT化のハードルとなっている3つの課題と解決策

製造業のIoT化には、様々なメリットがあると分かりました。ただし、IoT化には3つの課題があり、IoT化のハードルを高めているのが現状です。
ここでは、製造業が抱えている課題にあわせて各課題の解決策を紹介しています。導入を検討している人は、ぜひ参考にしてください。
1. 導入コスト
IoTの導入には莫大なコストが発生します。大企業ではもともと機械設備が整っていることも含め、IoT化の進行が見られます。一方、中小企業の多くでは、次の理由からIoT化の滞りが見られる状況です。
IoT化に莫大な費用コストがかかる
IoT化に伴う機械設備の見直しが必要
導入後のビジネスモデルを確定できていない
中でもIoT化にかかる費用は、多くの企業が抱える課題となっています。工場の規模によっては数百万以上の設備投資が必要となるでしょう。
資金不足の解決策として、最近では多くの自治体が導入補助金を用意しています。例えば、東京都江戸川区では、AIやIoTの導入費用を最大200万円補助する補助金制度が登場しました。
補助金を活用するとIoT化に必要な機器の導入ハードルを下げられるため、今後中小企業での導入が加速していくと予想されます。
(参考)J-Net21「AIやIOTなどのデジタル技術導入費用を最大200万円補助:東京・江戸川区」
2. IoTと製造業に詳しい人材の不足
企業の規模を問わずIoTの最新技術を活用できればいいのですが、IoTの知識や技術を持つ人材が不足しているのが現状です。また、そのような能力を持つ人材は大企業に集まりやすい傾向にあるため、中小企業独自でIoT化を進めるのは難しいといえるでしょう。
この課題解決に必要となるのが、次の取り組みです。
・IoTに関する業務をアウトソーシング化
・社内で人材を育成しIoT導入を進める
・従業員への負担が少ないようにスポット的にIoT化を進める
確かにIoT化は作業効率を高め、製造業の活動を促進してくれます。しかし、人材が不足していては効果を発揮しません。
まずはIoT導入の知識を自社で学び部分的にIoT化を進めつつ、不足している箇所をアウトソーシングで補っていく取り組みが中小企業に求められます。
3. セキュリティの問題
IoT化の促進とともに対応が必要となるのが、セキュリティです。インターネットを使用して情報管理を行うことから、悪意のあるアクセスや情報漏洩から自社を守る施策を検討する必要があります。
この課題解決には、セキュリティの強さと繰り返しのアップデートが必要です。ただし、費用と作業コストを踏まえつつ、次に示す解決策を実施することが求められます。
・情報セキュリティのアウトソーシング化
・費用コストを見据えたサポート範囲の検討
情報をすべてネットワーク管理するため、自社で対応が難しいと感じた時には、IoTを専門とするセキュリティの外部委託、または最新セキュリティ機器の導入が必要です。セキュリティ対策はインターネット利用の中でも重要なポイントなので、注意してシステム運用を行っていきましょう。
製造業でIoTを取り入れるには?導入の流れを見てみよう

IoTの導入に興味を持っているけれど、どのような方法で導入できるのか理解できていない人も多いでしょう。そこで、ここでは3つのステップに分けて導入手順を解説します。
導入の流れを理解するために、ひとつずつチェックしてください。
ステップ1|生産設備からデータ収集と蓄積を行う
製造業のIoT化に取り組む前に大切なのが生産設備のデータ収集と蓄積です。IoTを導入する場合には、あらかじめ次のデータを集めておく必要があります。
・材料収集~製品出荷までのプロセス
・製造システムの情報
IoT化は、モノを情報化するのが特徴です。どういったプロセスでIoTを導入できるのか検討できることはもちろん、IoT導入によりどこまでコスト削減ができるのか検討することも必要でしょう。
また、現在利用している生産設備にIoTが導入できるのか調べておくことも大切です。製造過程に関わるすべての情報を収集し、俯瞰的に分析すれば導入課題が見えてくるでしょう。
作業全体を見える化しておけば、リスクマネジメントを実施しつつ最低限のコストでIoTを導入できます。無駄のない導入を実現するためにも、集められる情報を整理してください。
ステップ2|得られたデータの分析結果をシステムに反映させる
生産設備に必要なデータをすべて収集できたら、分析結果をシステムに反映していきます。例えば、分析結果からどのようなシステム制御を実施するか検討が必要です。
・生産過程における空調温度の制御
・配置機材の自動メンテナンス
従来、人間が行っていたシステム制御をIoTの中に組み込みます。費用対効果を検討しつつシステム制御の項目を考えていきましょう。
ステップ3|システム・機器による自動化を行う
IoT化の最終段階では、設備機器やシステムの自動化を行います。業務だけではなく管理まで自動化することで、人的作業を最低限に減らせます。
少人数でのシステムや機器の管理ができることも含め、作業時間および人件費、工場維持費といったコストを改善してくれるでしょう。
製造業におけるIoT活用時の3つのポイントをおさえよう
最後に、製造業におけるIoT活用で欠かせない3つのポイントを解説します。IoT導入時に必要なポイントになるため、ひとつずつ見ていきましょう。
1. IoTで実現したい目的を明確に持つ
一言にIoTといっても、導入する工場や設備、システムによって導入する条件が異なります。そのため、次のような目標や目的を明確にしたうえでIoT導入を進めていきましょう。
・生産設備のどのような課題を解決したいのか
・IoT導入の後はどのようなことを見据えているのか
もし目的を明確にできなければ、途中で導入に行き詰まる可能性があります。何を解決し何を実現したいのか、ブレない目的を持ちつつ検討を進めていきましょう。
2. 試行錯誤しながら少しずつ活用を進めていく
IoTの導入は、一度の検討ですべて完了するわけではありません。何度も試行錯誤を繰り返し、問題点の洗い出しと改善が進んでいきます。
IoT化の導入は莫大な費用がかかることも踏まえて、まずはスモールスタートから開始してみましょう。少しずつ自動化できる部分を増やしていけば、万が一のときの損失も小さく済むはずです。
コストを抑えつつ工場を作業効率化するためには、スモールスタートとトライアンドエラーが欠かせないことを覚えておきましょう。
3. 運用に向けた研修やマニュアル整備を行う
IoT化を進める場合は、適切な運営ができる人材の育成が必要です。IoTに関する知識を従業員に浸透させることはもちろんのこと、次のような基盤を用意しておくといいでしょう。
・IoTに関する「研修」の実施
・自社のIoTルールをまとめた「マニュアル」の整備
特にIoTは、導入する製造業によってシステムやルールが異なります。スムーズな運用を実現するために、従業員が働きやすくなる基盤の整備も同時に行いましょう。
製造業でのIoT活用事例2選
(事例1)凸版印刷株式会社
トッパン・フォームズは、自動車部品メーカーの製造ラインをIoT化する取り組みを行いました。製造実績の収集業務においては、従来のかんばんにICかんばんを導入し、データの取得と蓄積を行い、生産状況を視覚化しました。さらに、収集したデータを活用して生産日報の作成を自動化しています。なお、このICかんばんはRFID技術を用いて構築されています。
(参考)製造現場から出荷までの見える化をスムーズに行いたい|事例紹介|Biz Solutions TOPPAN Edge
(事例2)株式会社ウチダ
ウチダは、中小企業でありながら自動車部品の製造を主に行っており、OA機器部品や工作機械用部品の製造・加工も行っています。
IoTの導入により、株式会社ウチダは以下の成果を上げることに成功しました。
・生産実績を短期間で可視化
・生産性損失の原因を特定
・製造工程におけるムリ、ムダ、ムラの発見
IoTの導入によって、製造工程やデータの可視化に成功したことで、課題や改善点の特定が容易になり、改善活動の計画・実施、効果検証が可能となりました。さらに、効果的な改善行動をとることで、生産性の向上やコスト削減、製造設備の故障予知を実現しています。
(参考)製造業のIoT導入事例の紹介|株式会社ウチダ様 | IoT.Run - 導入事例豊富なDX推進・IoT専門会社
まとめ
今回は、IT技術の中でも注目が集まる製造業の「IoT」に焦点を当てて、特徴や導入メリット、そして課題と解決策について解説してきました。
従来の工場作業を効率化できることはもちろん、モノとインターネットを接続することで高品質な工場管理が可能となります。IoTの導入には情報収集と分析が必要です。もし導入を検討しているなら、その先駆けとしてインターネット接続のために必要となるデバイスやSIMの利用を検討してみてはいかがでしょうか。

IoTBiz編集部
2015年から通信・SIM・IoT関連の事業を手掛けるDXHUB株式会社のビジネスを加速させるIoTメディア「IoTBiz」編集部です。
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