農業用ドローンとは?種類や導入方法、メリットデメリット、活用事例をわかりやすく簡単に紹介
農業用ドローンとは?種類や導入方法、メリットデメリット、活用事例をわかりやすく簡単に紹介
農業界において、革新的な技術として注目を集めているのが「農業用ドローン」です。この技術は、農作業の効率化や作業負担の軽減、さらには生産性の向上に大きく貢献しています。本記事では、農業用ドローンの種類や導入方法、そのメリットやデメリット、そして実際の活用事例について詳しく解説します。農業現場におけるドローンの可能性に迫ります。
目次
農業用ドローンとは
農業用ドローンとは、農業作業を効率化し、生産性を向上させるために設計された無人航空機です。一般的なドローンとは異なり、農業用ドローンは特定の農業作業に特化した機能を持っています。
農業用ドローンの主な用途には、以下のようなものがあります。
・農薬散布:農薬をタンクに搭載し、作物の上空から精密に散布することで、効率的かつムラなく施用できます。これにより、作物にかかる農薬の量を最小限に抑えつつ、作物の保護を行うことが可能です。
・肥料散布:農薬と同様に肥料を散布することができます。肥料の適切な施用により、作物の成長を最適化し、収穫量や品質を向上させることができます。
・播種:米や麦などの種まきを行う際にも使用されます。特に水田などの広大な農地では、ドローンを使った播種が省力化と効率化を実現します。
・モニタリング・画像撮影:カメラやセンサーを搭載し、作物の生育状況や土壌の状態、病害虫の発生状況などをリアルタイムで把握することができます。これにより、問題の早期発見や管理の精度向上が可能です。
このように、農業用ドローンは近年急速に普及が進んでおり、農業分野において効果的なツールとして注目されています。今後も技術の進化と共に、さらなる活用が期待されています。
農業用ドローンの種類
農業用ドローンは、農業の各工程に特化した機能を持ち、効率化と生産性向上に寄与しています。ここからは、それぞれの種類についてさらに詳しく説明します。
農薬散布用ドローン
農薬散布用ドローンは、農地に均等に農薬を散布するために設計されています。通常、液体の農薬を搭載したタンクとノズルを持ち、空中から高精度で農作物に農薬をかけます。
特徴
・精密な施用:従来の散布方法に比べて、ドローンは空中からより正確に農薬を散布できます。これにより、農薬の無駄を減らし、環境への負荷も軽減できます。
・作業効率の向上:特に大規模な農地での散布作業を迅速に行えるため、作業時間や労力を大幅に削減できます。
・高齢化対応:農業労働者の高齢化が進む中で、散布作業の負担を軽減し、労働力不足に対処する手段としても期待されています。
2022年には、日本国内での農薬散布面積をドローンによる施用で大幅に拡大する計画が進められており、技術の進化と共にさらなる普及が期待されています。
肥料散布用ドローン
肥料散布用ドローンは、液体肥料を効率的に農地に散布するための装備を持っています。特に中山間地や広大な農地での使用が多く、CLAS(センチメータ級測位補強サービス)などの技術を活用して、高精度で作業を行います。
特徴
・高精度な施用:RTK方式に比べて基地局や事前測量が不要なため、設置や準備にかかる時間が短縮され、作業効率が向上します。
・作業の迅速化と負担軽減:中山間地などでの作業は通常、体力を消耗することが多いため、ドローンによる散布は作業者の負担を軽減し、持続可能な農業に寄与します。
技術の進歩により、精度と効率性がさらに向上すると共に、農業の多様な条件下での利用が拡大しています。
播種用ドローン
水稲などの直播作業に使用され、種まき作業を効率化します。地面に直接種をまく従来の方法と比べて、空中から種をまくことで作業時間を大幅に短縮できます。
特徴
・作業時間の短縮:従来の種まき方法に比べ、5分の1程度の作業時間で同等の収穫量を確保できるとされています。
・労働力削減:人手不足や労働力の高齢化が進む中で、播種作業を効率的に行う手段として期待されています。
現在は主に水稲などの特定の作物に対して実証実験が行われており、技術の安定化と普及が今後の課題です。
授粉用ドローン
果物の授粉作業に使用され、花粉溶液を散布することで作物の結実率を向上させます。
特徴
・迅速な作業:手作業で数時間かかる授粉作業を、数分で行うことができます。特に天候の影響を受けにくい防水性のドローンを使用することで、作業の安定性が増します。
・効率の改善:果樹園などの大規模な農地での授粉作業において、作業効率の改善が期待されます。
日本国内外で実証実験が進行中であり、特に果樹園での使用が有望視されています。
センシング用ドローン
センシング用ドローンは、上空から撮影した画像を分析して、作物の育成状況や土壌状態、病虫害の発生状況などを評価するために使用されます。
特徴
・高度な画像解析:センシング技術を活用することで、人間の目では捉えにくい詳細なデータを得ることができます。これにより、作物の健康状態や生育状況を的確に把握し、適切な管理が可能になります。
・作業効率の向上:広島県の実証実験では、キャベツの見回り作業時間が1haあたり約50分から約30分に短縮されました。これにより、農作業全体の効率が向上し、生産性が高まります。
より高精度でリアルタイムなデータ収集が可能となることで、農業の持続可能性を向上させることが期待されます。AIや機械学習との組み合わせにより、自動化された作業管理システムの実現が進むでしょう。
鳥獣被害対策用ドローン
鳥獣被害対策用ドローンは、主にイノシシなどの害獣の確認や対策を目的としています。赤外線カメラや画像解析システムを搭載し、生息数や分布を把握することで、効果的な対策を講じることができます。
特徴
・効果的な監視と分析:上空からの視点で広範囲をカバーし、イノシシなどの害獣の生息地や侵入経路を迅速に特定できます。
・データに基づく対策:画像解析によって得られたデータを元に、効果的な環境整備や捕獲・追跡の戦略を立てることが可能です。
地域ごとの害獣の種類や発生傾向に応じたカスタマイズされた対策が進むことで、農業被害の軽減や農業生産の安定化が期待されます。また、新たな技術やセンサーの導入により、より精緻な監視と対策が可能になるでしょう。
これらの農業用ドローンは、それぞれの特性を生かして農業の多様な課題に対応し、持続可能な農業生産を支える重要な技術として今後も進化していくことが期待されます。
農作物等運搬用ドローン
農作物等運搬用ドローンは、収穫した農作物や資材を運ぶために設計されています。主な目的は、農業労働力の不足や高齢化が進む地域での配送手段の確保です。
特徴
・高齢者の支援:免許を返納した高齢者が多い地域でも、農作物の運搬が可能になります。これにより、地域の経済活性化や地方創生が促進される可能性があります。
・実証実験の成果:千葉県の実証実験では、7kgものネギとイチゴをドローンに積載し、約800m先の広場まで5分38秒で到着させた実績があります。このような迅速な運搬能力は、特に生鮮食品の迅速な流通に寄与します。
技術の進歩により、より大容量の積載や長距離の運搬が可能になることが期待されています。また、地域社会のニーズに応じたドローンの設計と運用が進むことで、その有用性が広がるでしょう。
農業用ドローンを導入するメリット
ここからは、農業用ドローンを導入することによる主なメリットについて詳しく説明します。
作業負担の軽減
農業では農薬の散布や肥料の運搬など、重量物を持ち上げる作業がありますが、これらの作業をドローンが代行することで、作業者の肉体的負担が大幅に減ります。例えば、炎天下での長時間の作業は熱中症のリスクも考慮されますが、ドローンによる散布作業で作業者は直接的な危険を避けることができます。
急峻な地形への対応能力
中山間部や急斜面のような人が入りにくい地形でも、ドローンを使用することで作業を行うことができます。ドローンは地形の影響を受けにくく、河川を越えるなどの作業も可能です。これにより、従来ではアクセスが難しかった場所での効率的な農作業が可能になります。
栽培計画の効率化
ドローンが撮影した高解像度の画像を利用して、農地の状態をリアルタイムで把握することができます。これにより、雑草の発生状況や害虫の影響を早期に察知し、迅速に対策を講じることができます。また、作物の生育状況や栄養状態を分析し、適切な肥料管理や水管理を行うことができるため、収量の安定化や品質の向上が期待されます。
これらのメリットにより、農業用ドローンの導入は農業生産の効率化と持続可能性向上に大きく寄与することが期待されます。
農業用ドローンを導入するデメリットや課題
ここからは、農業用ドローンを導入するデメリットや課題について詳しく紹介します。
導入コストや運用コストが高額
導入コストと運用費用に関しては、初期投資が高額であることが主な課題です。高度な技術やセンシング機能を搭載したドローンは、それに見合った価格がかかります。また、複数のドローンを運用する場合は、追加のコストも増えます。さらに、長期間の運用に伴うメンテナンスや修理、バッテリーの管理など、維持費も必要です。
高度なドローン操作技術の必要性
技術的な課題では、ドローンの操作には高度な技能が必要です。特に自動制御機能を使用する場合、操作者はシステムの理解とトラブルシューティング能力を持っている必要があります。また、地域ごとの法規制にも従う必要があり、特に飛行場や住宅地域での運用は厳格な制限が課せられます。
天候に左右される
実用面での制限としては、天候条件に依存することが挙げられます。強風や悪天候ではドローンの安全な運用が制限され、雨や霧の場合はセンシング技術の精度が低下する可能性があります。また、現在の技術ではバッテリー容量や飛行時間が限られており、長時間の作業には複数のバッテリーが必要になる場合もあります。
これらのデメリットは、農業用ドローンの導入と運用において考慮すべき重要なポイントであり、技術的な課題の解決や社会的な影響を最小限に抑えるための対策が必要です。
農業用ドローンの活用事例
最後は、農業用ドローンの活用事例をいくつか紹介していきます。
農薬散布(JA全農ちば)
農業用ドローンの活用は、特に農薬散布において注目されています。集落営農法人連合体では、従来の無人ヘリコプターや手動散布による防除作業を補完するため、農業ドローンを導入しました。これにより、生産者の個別防除作業を効率化し、農業生産全体の品質向上を図っています。
また、農薬の登録が進む中で、ドローンに最適な農薬も増え、さまざまな作物に対応した散布が可能になっています。これにより、散布作業の精度と効率が向上し、散布実績も増加しています。
実証事業の例
JA全農ちばの事例では、水稲21.7haにおいて、無人ヘリコプターによる航空防除事業を補完する形で、農業ドローンを活用した農薬散布請負事業が立ち上がりました。この取り組みでは、防除事業者と農業ドローン所有者を組織化し、適切な時期に散布を行い、請負面積を拡大しています。
効果として、生産者は手動作業に比べて大幅な労力軽減を実感し、斑点米カメムシ類による被害が軽減され、一等米の比率が前年の6割から9割へ改善されました。
結果と今後の展望
農業ドローンによる散布は、生産者の負担を軽減し、作物の品質向上に寄与することが確認されています。今後は、さらに園芸品目など新たな防除項目の導入や、請負面積の拡大が計画されています。技術の発展とともに、農業用ドローンの利用範囲が広がり、効率的な農業生産を支える重要なツールとなることが期待されています。
(参考)令和4年度 農業分野におけるドローンの活用状況 令和4年10月 農林水産省農産局技術普及課
肥料散布(東光鉄工株式会社)
肥料散布における農業用ドローンの活用は、特に高精度な可変施肥を実現するために進展しています。CLAS(Centimeter Level Augmentation Service)対応のドローンを使用し、RTK基地局や事前の測量を必要としない高精度な飛行が実現されています。これにより、肥料を必要な場所に適量施肥すると同時に、他の場所には散布しない独自の技術が開発されています。
実証事業の例
東光鉄工株式会社による水稲1.0haでの肥料散布事例では、次のような取り組みが行われています。肥料散布の際、RTK方式に代わりCLASを使用することで、同等の飛行性能を確保しつつ、基地局の設置や事前の測量作業の必要性が大幅に低減されました。具体的には、1区画(約200m四方)あたりのRTK基地局設置作業が8分、事前の測量にかかる時間が約1時間程度から、CLASの導入によりこれらの作業が不要になりました。これにより、作業時間の短縮と効率化が図られました。
結果と今後の展望
この取り組みにより、肥料散布における労働力の大幅な削減効果が確認されました。従来の動力噴霧器に比べて、作業の自動化と精度向上が実現されており、中山間地域などでの農業生産性の向上が期待されています。今後は、さらにCLAS技術の普及と共に、肥料散布の範囲を拡大し、より効率的かつ環境に配慮した農業が進展することが見込まれます。
このように、農業用ドローンによる肥料散布は、技術革新によって効率化と精度向上が進みつつあり、農業生産において重要な役割を果たしています。
(参考)令和4年度 農業分野におけるドローンの活用状況 令和4年10月 農林水産省農産局技術普及課
播種(株式会社アグリシップ)
播種における農業用ドローンの活用は、特に水稲の直播に焦点を当てて進展しています。メーカーや先進的な経営体が主導し、育苗や田植え作業が不要となることから、省力効果が非常に高いと評価されています。また、土中打込み播種や種子のコーティング比較実証など、湛水直播技術の開発も進められています。
実証事業の例
(株)アグリシップによる水稲1.6haの播種事例では、次のような具体的な取り組みが行われています。同社は20年前から水稲の湛水直播を行っており、現在では水稲16haの内、1.6haをドローンによる直播で実施しています。さらに、周辺の生産者からも49ha分の播種作業を受託し、すべてを直播で実施しています。
この取り組みにより、毎年の規模拡大に伴う労働費の削減や作業の分散が図られています。ドローンによる直播は3年前から始められ、効率的な作業手法として定着しています。
令和3年度には、異なるコーティング技術を用いた播種の実施も行われました。べんモリコーティング種子、リゾケアコーティング種子、鉄コーティング種子などが試され、それぞれの効果や適応性が検証されました。
結果と今後の展望
実証結果では、ドローンによる播種作業時間が直播機に比べて大幅に短縮され、10aあたりの作業時間が10分から2分へ削減されました。また、収量に関しても約520kg/10aという高い水準を確保し、直播機を用いた栽培と同程度の収穫量が得られています。
今後は、さらなる技術の進化と共に、湛水直播技術の普及が期待されています。特に、異なる種子コーティングの効果や経済性を詳細に検討し、農業生産の効率化と持続可能性を向上させることが重要な課題となっています。
このように、農業用ドローンによる播種は労働力の削減や作業効率の向上をもたらし、農業生産の革新に寄与しています。
(参考)令和4年度 農業分野におけるドローンの活用状況 令和4年10月 農林水産省農産局技術普及課
鳥獣被害対策(南小国町(熊本県))
農業用ドローンを利用した鳥獣被害対策では、主に有害鳥獣(例: シカやイノシシ)の生息地域や生息数、行動状況の把握が目的とされています。特に一部の自治体では、ドローンによる空撮が行われ、生息地の確認や効果的な捕獲計画の立案に活用されています。
実証事業の例
南小国町(熊本県)では、以下のような具体的な取り組みが進められています:
・課題:農作物に被害を及ぼす有害鳥獣の捕獲に関するデータ管理や、捕獲後の報告書や補助金申請書の作成が煩雑であったことが課題とされました。
・解決策:ドローンと赤外線カメラを活用し、リアルタイムで情報を共有するシステムを導入しました。これにより、シカやイノシシなどの生息状況を捕獲時に観察し、その情報を効果的に管理することが可能になりました。
・具体的な取り組み:捕獲時にはスマートフォン専用アプリを使用して捕獲データを管理し、捕獲域や捕獲数などの詳細を記録します。従来の手作業で行われていた報告書の作成や自治体への提出作業が削減されました。これにより、報告作業や自治体での確認作業が迅速化し、効率が向上しました。
結果と今後の展望
この取り組みにより、地元猟友会などによる捕獲活動の効率化が図られ、生息状況の正確な把握が可能になりました。また、テクノロジーの活用により、従来の手法では難しかったリアルタイムでの情報共有が実現しました。
今後は、さらなる技術の発展やデータ解析の精度向上を通じて、より効果的な鳥獣被害対策が進められることが期待されます。特に、ドローンやセンサー技術の進化により、より精緻な生息状況の把握や、効果的な捕獲計画の立案が可能になると見込まれています。
このように、農業用ドローンの鳥獣被害対策は、従来の手法に比べて効率化と負担軽減をもたらし、農業と自然保護の両面で重要な役割を果たしています。
(参考)令和4年度 農業分野におけるドローンの活用状況 令和4年10月 農林水産省農産局技術普及課
IoTBiz編集部
2015年から通信・SIM・IoT関連の事業を手掛けるDXHUB株式会社のビジネスを加速させるIoTメディア「IoTBiz」編集部です。 DXHUB株式会社 https://dxhub.co.jp/ 京都本社 〒600-8815 京都府京都市下京区中堂寺粟田町93番地KRP6号館2F 東京オフィス 〒151-0053 東京都渋谷区代々木1-25-5 BIZ SMART代々木 307号室
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