ドローンの活用事例を業界業種別にわかりやすく解説
ドローンの活用事例を業界業種別にわかりやすく解説
近年、急速に進化するドローン技術が、さまざまな産業に革新をもたらしています。省人化、効率化、そして新たなサービスの提供において、ドローンは重要な役割を果たしています。本記事では、異なる業界でのドローン活用事例を業種別に詳しく解説し、その実際の運用と効果について掘り下げていきます。
目次
ドローンの普及と「空の産業革命」
2022年度の日本のドローン市場は前年比33.7%増の3086億円に達し、2028年度には9000億円超に成長すると予測されています。特にサービス市場が最も大きく成長し、2022年度から2028年度にかけて年平均23.4%の成長が見込まれます。2022年12月の航空法改正により、有人地帯での目視外飛行(レベル4飛行)が解禁され、物流や点検、農業などの分野でドローンの活用が進展しています。これに伴い、新たな機体認証制度や操縦者技能証明制度が導入され、ドローンの安全性と操縦者のスキルが強化されています。農業では農薬散布、林業では資材運搬、物流では全国での実証実験が進行中です。エンターテインメント分野でもドローンショーが注目を集めています。ドローンスクールやバッテリー、保険などの周辺サービス市場も拡大しており、ドローン市場は多方面で急速に成長しています。
(参考)2022年度のドローンビジネス市場規模は前年比33.7%増の3086億円 レベル4飛行の解禁によりドローン活用が進み、2028年度は9000億円超へ 『ドローンビジネス調査報告書2023』3月27日発売 | インプレス総合研究所
ドローンの普及の背景
ドローン、正式には無人航空機(UAV: Unmanned Aerial Vehicle)、は近年その活用範囲を広げています。軍事用として開発が始まり、1980年代には民間にも進出し、農業や産業、そして娯楽分野にまで浸透しています。日本では1987年に無人ヘリコプターが販売され、農薬散布や空撮に利用されるようになりました。2010年には、一般消費者向けの「AR Drone」がフランスで発売され、ホビーとしての人気も高まりました。
ドローンのレベルと法規制
ドローンの飛行はそのリスクに応じて「レベル1」から「レベル4」に分けられます。レベルが上がるごとに高度な飛行が可能になりますが、その分規制も厳しくなります。
レベル1:目視内での手動操縦
レベル2:目視内での自動・自律飛行
レベル3:無人地帯での目視外自動・自律飛行
レベル4:有人地帯での目視外自動・自律飛行
2022年12月5日の法改正により、有人地帯での目視外飛行(レベル4)が可能となり、これによりドローンの用途が大幅に広がりました。
農業・林業でのドローン活用事例
ここでは、農業・林業でのドローン活用事例を詳しく紹介します。
【林業】造林プランニングシステム・立木位置情報管理システム
ドローンの活用は林業において効率化と精度向上を大きく促進しています。特に、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所と株式会社フォテクの共同研究による「造林プランニングシステム」と「立木位置情報管理システム」が注目されています。
造林プランニングシステムは、従来の造林・育林作業が経験者の勘に頼る部分が多く、効率的な計画が難しいという課題に対応するために開発されました。このシステムでは、ドローンによる空撮とAI画像判定を用いて地形や地物を迅速に把握し、将来の機械導入を考慮した植栽計画を作成します。これにより、事前の地況把握に基づいて簡単な設定で植栽プランニングが可能となり、効率的かつ安全な作業を実現するための基盤が整います。
空撮には一般的なドローンを使用し、解像度1-2cmの設定で対地高度50m程度から撮影することで、詳細な三次元モデルを作成します。また、植栽現場に基準点(GCP)を設置し、カメラ位置座標を正確に記録することで、正確な位置情報を取得します。
立木位置情報管理システムは、植栽計画の現場再現において正確な植栽位置への誘導が必要であるという課題に対応しています。このシステムでは、作業員を迅速に植栽計画位置に誘導するデバイスを開発し、植栽位置情報を取得・管理します。これにより、作業員を正確に植栽位置に誘導し、位置決め作業を省略することができ、誘導位置精度は50cm以内、位置記録精度は20cm以内を実現します。
さらに、山間部でのドローン活用においては、高精度な位置情報を得るための安価な高精度GNSSや後処理キネマティック(PPK)方式の利用が有効です。通信環境が不備な現場では、リアルタイムでのRTK-GNSS方式の利用は困難ですが、後処理方式が適しています。
これらの技術の導入により、林業の作業は軽労化・効率化が進み、将来的にさらなるドローン技術の普及と導入が期待されています。
(参考)造林のためのドローン活用事例集~低コストで省力的な再造林を目指す~|林野庁
【農業】農薬散布
農業分野におけるドローンの活用は、特に農薬散布において著しい進展を見せています。集落営農法人連合体によるドローン防除作業や無人ヘリ防除の補完としてのドローン防除などの取り組みが広がっています。
山口県長門地域では、集落営農法人の構成員の高齢化が進む中、農地や集落の維持、新規就業者の確保などを目的として、JA出資型法人の集落営農法人連合体「株式会社長門西」が設立されました。この法人は、ドローンを導入して航空防除事業を展開し、2021年度には延べ300ヘクタールの農薬散布を実施しました。これにより、狭小な農地や中山間地域の水田ほ場でも効率的な防除が可能となり、地域の若手農業者をドローン防除のオペレーターとして養成する教習事業も併せて実施しました。
さらに、ドローンを活用した農薬散布請負事業も構築されています。この事業では、防除事業者および農業ドローン所有生産者を組織化し、適期散布を徹底し、請負面積の拡大に対応しています。2021年度には、無人ヘリによる航空防除事業を利用できない生産者のほ場で実証を行い、「手散布作業に比べて大きな労力軽減となり助かる」との声が生産者から寄せられました。また、斑点米カメムシ類による被害が軽減され、一等米比率が前年の約60%から90%に改善するなど、成果も現れています。
株式会社長門西の2021年度の実績には、延べ300ヘクタールの航空防除(ドローン)と200ヘクタールの農作業受託、水稲共同育苗4,200箱が含まれます。今後は、園芸品目の防除など請負項目を順次拡大する予定です。
このように、ドローンの導入は農業において効率的かつ精度の高い農薬散布を可能にし、高齢化が進む農業現場の労働力不足を補う重要な技術として期待されています。
(参考)令和4年度農業分野におけるドローンの活用状況 令和4年10月 農林水産省農産局技術普及課
漁業でのドローン活用事例
ここでは、漁業でのドローン活用事例を詳しく紹介します。
【漁業】魚群探索システム
漁業におけるドローン活用事例として、海外まき網漁船や一本釣り漁業における魚群探索システムの開発が進んでいます。これにより、従来は乗組員の目視に頼っていた魚群探索が、飛行機型ドローンを導入することで自動化され、探索範囲の拡大と探索時間の短縮が実現されています。具体的には、株式会社自律制御システム研究所や古野電気株式会社が関与し、農林水産省の支援を受けています。これにより、漁船の作業効率が向上し、作業コストの削減に寄与すると期待されています。
(参考)水産分野の成長産業化にむけた技術事例 平成30年2月
物流・倉庫業界でのドローン活用事例
ここでは、物流・倉庫業界でのドローン活用事例を詳しく紹介します。
【物流】一般消費者向け配送サービス
物流業界でのドローン活用事例として、楽天が展開する「そら楽」サービスが挙げられます。このサービスは、ドローンを使った一般消費者向けの配送サービスであり、以下の特徴があります。
楽天は2016年5月9日から、「そら楽」と名付けたドローンを活用した配送サービスを開始しました。最初の実施場所は千葉県のキャメルゴルフリゾートで、約1か月間の試験運用が行われました。このサービスでは、スマートフォン専用のアプリを通じて、ゴルフ用品や軽食、飲み物などの商品を注文すると、ドローンがコース内の受取所まで自律飛行で商品を届ける仕組みです。
「そら楽」のドローンは、楽天が出資した株式会社自律制御システム研究所が開発した機体をベースにしており、楽天自身が改良・開発を行っています。このドローンは、自動で商品を積載し、受取所に届けるという操作を行います。楽天の技術研究所では、画像認識技術を利用してドローンの着陸を支援し、安定した飛行を実現しています。
利用者は、専用アプリを通じて商品を注文し、楽天会員IDでログインして決済を行います。配送は当初は無料で、商品の合計金額が100円以上から注文可能です。ドローンの最大積載量は約2キロであり、風速に応じた積載可能量をアプリで確認できます。また、営業時間は午前8時半から午後3時までで、天候が悪い場合は安全を考慮して営業を中止します。
楽天は「そら楽」を通じて、将来的には過疎地や災害時の救援物資配送にも活用を見込んでおり、このサービスを通じてドローン技術の実用化とオペレーションのノウハウを蓄積し、新たな革新的な配送サービスを展開していく計画です。
(参考)楽天グループ株式会社: 楽天、ドローンを活用した配送サービス「そら楽」を開始 | ニュース
【倉庫】自動在庫管理・棚卸作業
倉庫業界でのドローン活用事例として、サトーホールディングスが開発したシステムが挙げられます。このシステムは、ドローンと自動認識技術を組み合わせて、倉庫内での自動在庫管理や棚卸作業を実現しています。
具体的には、RFID(Radio Frequency Identification)のラベルが貼り付けられた荷物に対し、RFIDスキャナーを搭載したドローンを飛行させて荷物をスキャンする仕組みです。このシステムには自律制御システム研究所のMS-06LAというドローンが使用されており、飛行は人の手による操縦ではなくプログラミングによる自律飛行が行われています。
2016年4月22日に行われた国際ドローン展では、このシステムを用いたデモンストレーションが行われ、そのパフォーマンスと実用性が示されました。特に広大な倉庫を持つ企業にとって、この自動化された在庫管理システムは極めて効率的であり、作業の時間とコストを大幅に削減することが期待されています。
(参考)国際ドローン展 / サトーホールディングス株式会社 デモンストレーション - YouTube
プラント・エネルギー業界でのドローン活用事例
ここでは、プラント・エネルギー業界でのドローン活用事例を詳しく紹介します。
【プラント・エネルギー業界】年次点検
旭化成株式会社は化学工業を中心に、プラントおよびエネルギー業界においてドローンを活用した事例を展開しています。同社は、主に自社の事業所においてドローンを利用し、高所作業を回避しつつ、屋外広告物の年次点検を実施しています。この点検作業では、ドローンを使用することで作業の安全性を向上させ、作業の効率化や精度の向上を図っています。また、通信干渉やバッテリーの安全性、烏などの野鳥による攻撃回避策などの課題も抱えており、これらに対する対策を積極的に実施しています。具体的には、GPS運行での信号管理や風速管理、さらには飛行エリア周辺の立ち入り禁止措置などがあります。これにより、旭化成株式会社は安全かつ効率的なドローン活用を推進し、プラント点検におけるリスク管理と作業効率化を両立させています。
(参考)プラントにおけるドローン活用事例集 2019年3月 石油コンビナート等災害防止3省連絡会議 (総務省消防庁、厚生労働省、経済産業省)
スポーツ業界でのドローン活用事例
ここでは、スポーツ業界でのドローン活用事例を詳しく紹介します。
【スポーツ業界】ラグビーでのデータ収集
スポーツ業界におけるドローンの活用事例として、特にラグビー界での具体的な活用方法が注目されています。ラグビーでは、ドローンが高度な位置からフィールドを俯瞰し、試合中の選手の配置や動きを捉えることで、従来のカメラでは捉えきれない詳細なデータを提供します。この俯瞰映像は、ラックやモールなどの密集したシーンでの選手の位置関係や動きを明確にするのに役立ち、チームの戦術改善や個々のパフォーマンス向上に直結します。
また、トレーニング中にもドローンは活用されており、選手の動きや速度、加速度などのデータをリアルタイムで取得し、後に映像分析することでトレーニングの質を客観的に評価します。特にリロード時間(倒れてからの立ち上がり)などのデータは、選手個々のフィジカルコンディションを把握し、トレーニングプランの最適化に役立てられます。
さらに、ドローンが提供する映像データは、チームのコーチングや戦術会議で活用され、攻撃と守備の配置の最適化や、相手チームの傾向の分析に貢献します。これにより、ラグビー競技全体のレベル向上が期待され、大会での成功につながる可能性が高まっています。
ドローンの技術がさらに進化し、データ処理や映像解析の精度が向上することで、今後もスポーツ分野全体での活用が拡大し、競技の進化と選手のパフォーマンス向上に寄与することが期待されています。
(参考)GPS、ドローン…、ラグビー日本を支えたテクノロジー | 日経クロステック(xTECH)
建設・土木業界でのドローン活用事例
ここでは、建設・土木業界でのドローン活用事例を詳しく紹介します。
【建設・土木業界】施工管理
建設業界でのドローン活用事例として、清水建設株式会社が実施した大規模土木工事案件に関する事例が挙げられます。清水建設は、予算規模63億円の工事において、株式会社CLUEから提供されたドローンシステムを活用しました。このシステムは、工事現場の定点観測を自動化することで労働生産性を向上させることを目的としています。
具体的には、ドローンによる空撮写真を使用して、施工前の道路の混雑状況を定量的に測定しました。また、工事の進捗状況を逐一把握するために俯瞰した写真データが使用され、定例会議での進捗報告が円滑に行われました。これにより、従来の現場巡回作業や発注者との直接的なコミュニケーションに要する時間を削減することができました。
さらに、工事線形の図面通りの正確性を確認するために空撮画像と図面を比較し、また土地収用の際には利害関係者への説明に活用されました。これにより、視覚的な交渉が円滑に行われることが可能になりました。
このように、ドローンを活用することで建設業界では工事の効率化、品質管理の向上、コスト削減、安全性の確保などが実現され、特に大規模工事においてその効果が顕著に現れています。
(参考)CLUEが清水建設社にドローンシステムを提供。大規模工事の施工管理で活用。 | 株式会社CLUE
警備・セキュリティ業界でのドローン活用事例
ここでは、警備・セキュリティ業界でのドローン活用事例を詳しく紹介します。
【警備・セキュリティ業界】警備ドローン
セコム株式会社が開発した「セコムドローンXX」は、AIを活用して警備業務に革新をもたらす最新のセキュリティドローンです。このドローンは、2024年春に日本で初めて導入される予定であり、巡回監視および侵入監視に特化した機能を備えています。AIが搭載された画像認識システムにより、事前に設定されたルートを自律飛行し、敷地内の不審者や侵入者を検知すると、自動で追跡・映像提供を行います。また、飛行時間や最高速度が従来比で大幅に向上し、最大で半径約6kmの範囲をカバーする能力を持ち、耐風性能も強化されています。さらに、LTE通信を使用することで、Wi-Fi通信設備の設置が不要であり、低コストで容易に導入できる利点があります。新開発の全自動格納庫により、ドローンの運用効率も向上し、連続運用が可能となっています。セコムドローンXXは、セキュリティ業界において、警備効率化と安全性確保に大きく貢献する先進的な技術として注目されています。
エンターテインメント業界でのドローン活用事例
ここでは、エンターテインメント業界でのドローン活用事例を詳しく紹介します。
【エンターテインメント業界】ドローンショー
SkyDrive株式会社が展開する新サービス「空のエンターテインメント・ドローンショー」は、最先端のエンターテインメント体験を提供する革新的なプログラムです。このドローンショーは、高輝度LEDを装備した小型ドローンを使用し、夜空にプログラムされたアニメーションやグラフィックを描き出します。複数のドローンを使用することで、アニメやマンガのキャラクターを形成したり、QRコードを表示したりするなど、多彩な演出が可能です。これにより、視覚的に魅了されるエンターテインメント体験が提供されます。
SkyDriveは、ドローンショーの全ての段階をカバーするサービスを提供しており、クライアントの要望を基にコンテンツの企画・制作から、現地視察や航空局への申請手続き、実際の運航までを一貫してサポートします。この柔軟で包括的なアプローチにより、最短2カ月でのドローンショーの開催が可能とされています。
ドローンショーは急成長するサービスであり、自治体や企業は観光客誘致やイベントの特別な演出として積極的に活用しています。特に、花火大会や音楽イベント、スポーツイベントなど、従来の娯楽や広告手法にはない新しい視覚的体験を提供するための新たなツールとして期待されています。
SkyDriveのドローンショーの特徴は、1000回以上の運航実績に裏打ちされた安全性と信頼性、また機体開発会社ならではの技術力にあります。万が一の場合にも即座に対応可能な体制が整っており、高品質なエンターテインメントを保証しています。
SkyDriveは、これまでのドローン技術と知見を基盤に、空の新たなエンターテインメント体験を提供することで、日常生活における空の利用を促進し、未来の空飛ぶ移動手段に向けた前進を目指しています。
(参考)Skydrive、新サービス「空のエンターテインメント・ドローンショー」開始 – DRONE
IoTBiz編集部
2015年から通信・SIM・IoT関連の事業を手掛けるDXHUB株式会社のビジネスを加速させるIoTメディア「IoTBiz」編集部です。 DXHUB株式会社 https://dxhub.co.jp/ 京都本社 〒600-8815 京都府京都市下京区中堂寺粟田町93番地KRP6号館2F 東京オフィス 〒151-0053 東京都渋谷区代々木1-25-5 BIZ SMART代々木 307号室
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